ドラッグストアで働く薬剤師の方の転職相談では、「調剤もOTC相談も接客も担当していて、閉店は22時。この働き方を何年続けられるだろうか」といった働き方そのものへの迷いが語られることがあります(※転職支援メディアに掲載された体験談・インタビュー記事に共通して見られる傾向であり、統計的な代表値ではありません)。
ドラッグストア薬剤師は、医薬品の専門職でありながら小売業の現場にも立つ、独特のポジションです。その二面性が「やりがい」になる人もいれば、「しんどさ」として積み上がる人もいます。この記事では、公的統計や薬剤師を対象とした調査をもとに、離職・転職の理由として挙がりやすいものを整理しました。特定の企業や店舗を評価するものではなく、職種全体の一般的な傾向として扱います。
※この記事では、読者の方の選択肢を示す目的で転職サービスのジャンルに触れる箇所があり、一部にアフィリエイトリンクを含む場合があります。
この記事の「根拠レベル」の表記について
離職理由を扱う記事では、公的統計と個人の体験談が混ざりやすくなります。この記事では、記述ごとに根拠の種類を次のように明示します。
- (公的統計):厚生労働省など公的機関が公表している調査結果
- (業界団体調査):業界団体が会員企業を対象に実施した実態調査
- (民間調査):民間企業が実施したアンケート調査。対象者数・調査年に注意が必要
- (体験談ベース):転職支援メディア等に掲載された体験談・インタビューに繰り返し登場する傾向。定量的な裏付けはありません
まず前提:「ドラッグストア薬剤師の離職率」は公的統計に単独では存在しない
最初に押さえておきたいのは、「ドラッグストア薬剤師の離職率は○%」と言い切れる公的データは、現時点で存在しないという点です。厚生労働省の「雇用動向調査」は産業別・職業別の集計であり、業態を絞った薬剤師の離職率は公表されていません。
(公的統計) 参考として産業レベルの数字を見ると、令和6年(2024年)の雇用動向調査では、一般労働者の離職率が高い産業は「サービス業(他に分類されないもの)」19.0%、「宿泊業,飲食サービス業」18.1%などとなっています。一方、離職者数が多い産業として「卸売業,小売業」「医療,福祉」が挙がりますが、これはその産業で働く人の絶対数が多いことを反映した実数であり、「離職しやすい業界である」ことの根拠にはなりません。率と実数は分けて読む必要があります。
なお雇用動向調査は年2回(上半期・年計)公表され、直近では令和7年上半期の結果(入職率8.9%、離職率8.1%)まで公表されています。数値を引用する際は、必ず最新年次を確認してください。
ドラッグストアは日本標準産業分類上「卸売業,小売業」に入り、併設調剤部門の性格は「医療,福祉」に近い位置づけです。つまり、2つの産業の労働慣行が混ざった職場だと言えます。これは「離職率が高い業界の掛け合わせ」という意味ではなく、小売業のシフト・営業時間と、医療職の業務基準の両方が同時に働く職場である、という構造の説明です。
(公的統計) また厚生労働省の薬剤師確保に関する調査・検討事業の報告書では、薬局薬剤師の離職理由として「契約期間の満了」が多く挙がっていること、病院薬剤師では20代・30代の離職割合が高いことが示されています。非常勤・有期での就労が一定数あることや、若年層で職場を変える人が多いことは、薬剤師という職種全体の特徴として理解しておくとよいでしょう。
ネット上で見かける「薬剤師の離職率は10%程度」といった数値は、多くが求人サイトや人材会社による推計・自社データです。参考にはなりますが、公的統計と同じ精度のものとして扱わないほうが安全です。
調査で見る、薬剤師が職場を離れる主な理由
(民間調査) 業態を問わず薬剤師全般を対象にした調査では、退職を考えるきっかけとして次のような理由が上位に並びます。
マイナビが2023年に薬剤師600人を対象に実施した「薬剤師白書2023年度版」(複数回答・業態横断) では、退職を考え始めた理由として
- 給与条件(年収・月収・手当・賞与など)に関する理由:34.6%
- 人間関係に関する理由:31.7%
- 仕事内容・やりがいに関する理由:31.4%
- 勤務時間・勤務体系(シフト・交替制など)に関する理由:29.4%
が挙げられています。
この数値は2023年時点・n=600・複数回答・全業態合算の民間調査であり、ドラッグストア勤務者だけを抽出したものではありません。公的統計と同列には扱えない点に留意してください。
そのうえで注目したいのは、上位4つが30%前後で並んでいることです。「給与が最大の理由」と単純化するより、賃金・人間関係・仕事内容・働く時間の4つが、ほぼ同じ重さで効いていると読むほうが実態に近いでしょう。言い換えれば、何を優先するかは人によって大きく異なるということです。
ドラッグストア特有の「辞めたい」につながりやすい6つの構造
ここからは、ドラッグストアという業態の仕組みに由来しやすい負荷を整理します。いずれも「必ずそうなる」ものではなく、企業規模・店舗の立地・調剤併設の有無・人員配置によって大きく変わります。
1. 営業時間の長さと、シフトの不規則さ
ドラッグストアは年中無休・長時間営業が一般的で、都市部では22時閉店、一部には24時間営業の店舗もあります。早番・遅番の交替制、土日祝の出勤が組まれやすい業態です。
(体験談ベース) 土日連休が取りにくい、家族や友人と休みが合わない、遅番明けの生活リズムが整わない——こうした積み重ねが、勤務時間・勤務体系への不満として語られます。
なお「調剤薬局は固定的で、ドラッグストアは不規則」という単純な対比は正確ではありません。調剤薬局でも在宅対応、休日当番、夜間対応などがあり、勤務時間の実態は企業・店舗ごとに大きく異なります。比較するなら業態のイメージではなく、個別の求人票に記載された営業時間・シフト区分・年間休日数を見るほうが確実です。
2. 業務範囲が「調剤+OTC+店舗運営」に広がる
ドラッグストア薬剤師の業務は、調剤・服薬指導だけでなく、OTC医薬品の相談販売、健康相談、レジ、品出し、発注、在庫管理、売場づくりまで及ぶことが一般的です。
(体験談ベース) これを「幅広く経験できる」と前向きに捉える人もいますが、採用時に想定していた業務比率と、実際の配分が違ったと感じる人もいます。店舗運営業務そのものは、登録販売者や販売スタッフを含むチーム全員で店舗を成り立たせるために不可欠な仕事であり、優劣のあるものではありません。問題になりやすいのは仕事の種類ではなく、自分が伸ばしたい領域に使える時間が確保できているかという配分の話です。専門性を軸にキャリアを描いている人ほど、この配分のミスマッチが離職理由に育ちやすい傾向があります。
3. 小売業としての目標数値と、専門職としての判断の両立
ドラッグストアは小売業であるため、売上や粗利などの目標数値が設定されることがあります。設定の有無・内容・評価への反映度合いは、企業や店舗によって方針が大きく異なります。調剤併設店では、調剤側の指標が加わる場合もあります。
(体験談ベース) 販売目標の達成と、医療職としての判断(症状に照らして適切な提案をする)の両立に負担を感じた、という声は体験談記事に登場します。ただしこれは一部の主観的な体験であり、業界全体でそうした運用が行われていることを示す統計的な根拠はありません。個人の資質の問題というより、小売と医療という2つの評価軸が同じ現場に同居していることから生じうる緊張として理解しておくとよいでしょう。
4. 店舗単位の固定された人間関係
店舗は数人〜十数人の比較的閉じたチームで、正社員・パート・アルバイト・登録販売者と立場も多様です。少人数ゆえに相性の影響が大きく、(民間調査) 前掲のマイナビ調査でも「人間関係」は31.7%と高い水準で挙がっています(これは全業態合算の数値です)。
(体験談ベース) 特に薬剤師が特定時間帯に1名のみ配置される「一人薬剤師」の状況では、疑義照会や判断の相談相手が近くにいない、休憩や急な休みの調整がしづらい、といった負荷を感じたという声があります。一方で、本部への電話相談体制や近隣店舗からの応援体制を整えている企業もあり、実態は企業・地域によって差があります。
5. 調剤スキル・専門性への不安
(体験談ベース) 処方箋の受付枚数が少ない併設店では調剤経験が積み上がりにくい、逆に処方箋が集中する繁忙店ではOTC対応と並行するため余裕がない——どちらの方向でも「このままここにいて、5年後にどんな薬剤師になれているのか」というキャリア不安が語られます。特に若手層で挙がりやすいテーマです。
6. 転勤・店舗異動の範囲
チェーン企業は多店舗展開が前提のため、異動や転勤の可能性があります。転勤範囲(全国/エリア限定/店舗固定)は企業によって制度が異なり、勤務地限定コースを設けている企業もあります。ライフステージの変化(結婚、育児、介護、住宅の購入)と勤務地の流動性が噛み合わなくなるタイミングで、働き方を見直す人がいます。
一方で、続けている人が評価しているポイント
離職理由だけを並べると偏るので、逆側も整理します。同じ構造が、人によっては利点として働きます。
- 給与水準:(公的統計) 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」では職種別に薬剤師の賃金が公表されており、所定内給与と賞与を合算した年収換算では、近年おおむね500万円台後半〜600万円台の水準で推移しています(調査年・集計区分により変動するため、引用の際はe-Statで最新年次の数値を確認してください)。なお、この統計に業態別(調剤薬局/病院/ドラッグストア)の内訳は含まれません。「調剤併設型ドラッグストアは高め」という比較は民間の転職支援会社の集計に基づくもので、公的統計による裏付けはありません。
- OTC・セルフメディケーションの実践力:受診前の相談に応じる経験は、他業態では積みにくい専門性です。
- 小売・マネジメント経験:店長やスーパーバイザー、本部のバイヤー・教育担当など、薬剤師資格+店舗運営経験を活かすキャリアパスがあります。
- 求人数と地域の選択肢:店舗網が広いため、勤務地の選択肢が比較的確保しやすい面があります。
つまり「ドラッグストアが向かない」のではなく、その働き方が自分の優先順位と合っているかが分かれ目です。年収を重視する人、通勤時間を重視する人、専門性を重視する人で、同じ職場の評価は正反対になり得ます。
記事に出てくる用語の整理
- OTC医薬品:処方箋なしで購入できる市販薬(Over The Counter)。
- 登録販売者:第2類・第3類医薬品を販売できる公的資格者。ドラッグストア運営の中核人材。
- 調剤併設(店):ドラッグストア内に調剤室を設け、処方箋調剤を行う店舗形態。
- 一人薬剤師:店舗・時間帯に薬剤師が1名のみ配置される状態。
- 処方箋40枚基準:よく「40枚規制」と呼ばれますが、これは薬剤師1人が1日に扱える処方箋の上限を定めたものではありません。薬局の薬剤師の員数基準で、1日平均取扱処方箋数40枚につき薬剤師1人以上を配置する、という人員配置のルールです。人員体制を読むときの前提になります。なお近年は規制改革の議論の中で、この基準の見直しについても検討が行われています。
- かかりつけ薬剤師:患者の同意を得て継続的に服薬状況を管理する仕組み。運用方針は企業・薬局によって異なります。
- OTC類似薬:市販薬と同一・類似の成分で、医療機関でも処方されている医薬品。
いま、この業態が動いている時期でもある
(業界団体調査) 日本チェーンドラッグストア協会(JACDS)の第25回実態調査(2024年度)によると、業界総売上高は10兆307億円(前年比109.0%)と初めて10兆円を超え、店舗数は23,723店(682店の純増)となりました。うち調剤売上は1兆5,205億円(前年比108.4%)で、調剤併設化の流れが続いています。
制度面では、市販薬と同じ成分の「OTC類似薬」について保険給付のあり方を見直す方針が2025年6月に3党で合意されました。報道等によれば対象は77成分・約1,100品目(2025年12月時点の整理)とされ、第一段階として患者の自己負担に上乗せする措置が2027年3月から施行される予定とされています。制度の詳細は今後変更される可能性があるため、最新の公表資料でご確認ください。
この変化は、見方によって二通りです。「セルフメディケーションの担い手として役割が広がる」機会でもあり、「相談対応と説明業務がさらに増える」負荷でもある。 どちらに感じるかは、現在の人員体制や自分の志向によって変わるでしょう。だからこそ今は、働き方を一度棚卸ししておく価値のあるタイミングだと言えます。
辞める前に整理しておきたい5つの問い
「辞めたい」という気持ちは本物でも、原因の切り分けができていないと、転職しても同じ問題に再会してしまうことがあります。次の5つを書き出してみてください。
- 不満の対象は、業態か、職場か、時期か。 長時間営業という業態の問題か、特定店舗の人員不足という一時的な問題か。後者なら異動の相談で解決することもあります。
- 4つの要因のどれが一番重いか。 給与・人間関係・仕事内容・勤務時間のうち、自分にとっての最優先はどれか。前掲の民間調査ではこの4つがほぼ同率で並んでいました。逆に言えば、人によって答えは違うということです。
- 年収と時間、どちらを買い戻したいか。 業態を変えると、この2つはしばしばトレードオフになります。
- 社内で試せる手は残っているか。 異動希望、時短・勤務時間帯の相談、勤務地限定制度、部署転換(本部・教育・在宅対応など)。
- 5年後になっていたい薬剤師像は何か。 在宅医療、専門・認定薬剤師、管理薬剤師、店舗マネジメント、企業(製薬・CRO・DI)など、方向によって次の職場の選び方が変わります。
選択肢を「知っておく」という段階の動き方
すぐ辞めると決めなくても、外の条件を知ること自体が判断材料になります。求人票の年収レンジ・営業時間・1日あたり処方箋枚数・薬剤師の配置人数を見比べるだけで、「自分の職場は業界のどのあたりか」が見えてきます。
薬剤師の転職支援サービスには、おおまかに次のようなジャンルがあります。特定の1社が誰にとっても最適ということはないので、目的別に2〜3種類を併用して比較するのが現実的です。
- 薬剤師・医療職に特化した転職エージェント:業態ごとの内情や、処方箋枚数・人員体制といった細かい条件を確認しやすい。
- 総合型の転職エージェント・転職サイト:製薬企業、医療系ベンチャー、公務員薬剤師など、資格を活かした異業種を視野に入れたい場合に。
- 派遣・パート専門のサービス:勤務時間を自分で設計したい、育児や介護と両立させたい場合の選択肢。
- 求人検索型のデータベースサイト:エージェントに登録する前に、地域の相場や条件を自分のペースで眺めたいときに。
- 口コミ・年収情報サイト:応募先の勤務環境について、複数の情報源を突き合わせるために。
比較のときは、提示される年収額だけでなく、年間休日数、営業時間とシフト区分、薬剤師の配置人数、転勤の範囲、調剤とOTCの業務比率まで確認しておくと、入職後のギャップが小さくなります。担当者との面談は、辞める前提でなくても「市場の相場を聞く場」として使えます。
次の一歩
この記事を読んで思い当たる項目があったなら、まずは今日感じた違和感を、上の5つの問いに沿って書き出すところからで十分です。そのうえで、社内の相談窓口や上司に環境改善を打診するのか、外の条件を見てから決めるのか——順番は自由です。大事なのは、消耗しきってから急いで決めるのではなく、余力があるうちに選択肢を並べておくことだと思います。
この記事を読むうえでの前提
- ここで挙げた離職理由は、調査で多く挙がった傾向や、体験談に繰り返し登場するテーマをまとめたものです。ドラッグストアで働く薬剤師の方が皆、辞めたいと感じているわけではありません。同じ環境をやりがいと捉えて長く活躍している方も多数いらっしゃいます。
- 感じ方は、企業規模・店舗の状況・配置人数・ライフステージ・本人の志向によって大きく異なります。自分に当てはまるかどうかは、ご自身の状況に照らして判断してください。
- 業態を絞った薬剤師の離職率は公的統計として公表されていないため、本記事では産業別統計と民間調査・業界団体調査を組み合わせて整理しています。数値は引用元の調査年・対象者数の前提付きで読んでください。
- 統計値・制度の内容は公表時期によって更新されます。最終的な判断の際は、各機関の最新公表資料をご確認ください。
主な参照元
- 厚生労働省「令和6年 雇用動向調査結果の概要」(リンク)
- 厚生労働省「令和7年上半期 雇用動向調査結果の概要」(リンク)
- 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」(職種別賃金。最新年次はe-Statを参照)(リンク)
- 厚生労働省「薬剤師確保のための調査・検討事業 報告書」(リンク)、薬剤師確保対策
- マイナビ「薬剤師白書2023年度版」(2023年実施・薬剤師600人・複数回答)(リンク)
- 日本チェーンドラッグストア協会「第25回 実態調査(2024年度)」(リンク)
- OTC類似薬の保険給付見直しに関する報道 (薬事日報)、(解説)
- 処方箋40枚基準の見直し議論に関する報道 (参考)
- 業態別の勤務実態に関する体験談ベースの参考記事:マイナビ薬剤師、m3.com、ジョブメドレー
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