「安定しているのに、なぜ辞めるの?」——公務員の離職は、そう言われがちなテーマです。実際に職場を離れる人、あるいは今まさに迷っている人にとっては、その一言がいちばん重く響くこともあります。

この記事では、公務員の離職について、総務省・人事院・内閣人事局・厚生労働省などの公的な統計や調査をもとに整理します。特定の自治体や省庁、企業を批判する意図はありません。また、「公務員は辞めるべき/辞めないべき」という結論を押し付けるものでもありません。感じ方は人によって、そして配属先や職種によって大きく異なります。

なお、この記事の後半では転職サービスの一般的なジャンルや比較の考え方に触れ、記事内にアフィリエイトリンクを含む場合があります(掲載内容は編集部の判断で選定しています)。

まず結論:「離職率が高い」のではなく「若手の増え方が目立つ」

公務員の離職を語るときに最初に押さえておきたいのは、率としては依然として低い水準にあるという点です。

  • 厚生労働省「雇用動向調査」によると、民間企業全体の離職率は近年おおむね15%前後で推移しています。
  • 一方、地方公務員については、総務省「地方公務員の退職状況等調査」の普通退職者数を同年の職員数で割ると、全職種計でおおむね1%台後半という水準になります(分子は定年・勧奨等を除く普通退職者、分母は当該年度の職員数。編集部による単純計算で、公表されている「離職率」そのものではありません)。

同じ「辞めた人の割合」でも、雇用動向調査はパート・有期を含む常用労働者全体を分母に、定年や契約満了も含めて数えるため、公務員側の普通退職率とは定義が異なります。単純比較はできませんが、「公務員は辞める人が多い職業」と一般化するのは統計的には正確ではない、とは言えます。

では何が起きているのか。変化しているのは全体の水準ではなく、若手層の増加ペースです。

  • 総務省資料をもとにした分析では、一般行政職で30歳未満の普通退職者数が、2013年度の約1,500人台から2022年度には4,000人台へと、9年ほどで約2.6倍に増えたとされています。
  • 人事院の調査では、国家公務員総合職試験採用職員のうち在職10年未満の退職者は、2013年度の76人から2020年度には109人へと43.4%増加しました。その後も増加傾向が続き、令和4年度(2022年度)には177人と、当時の過去最多を記録しています。

「絶対数としては少数だが、若手の抜け方は以前と変わってきている」。これが、公務員の離職を語るうえでの出発点として妥当な整理だと考えられます。

公的アンケートで上位に挙がる離職理由(国家公務員)

まず、公的調査で実際に選択肢として集計されている理由を見ます。内閣人事局「国家公務員の働き方改革職員アンケート」では、数年以内に辞める意向がある職員に対して、その理由を尋ねています。

ここで挙げる割合は、離職意向のある職員を母数とした回答割合です。全職員の割合ではない点にご注意ください。また、この調査は国家公務員が対象であり、地方公務員に同じ構成がそのまま当てはまるとは限りません。

上位1:仕事のやりがい・成長実感

令和4年度調査では、最も多かった理由が「もっと魅力のある仕事に就きたい」で、離職意向のある職員の49.4%が挙げていました。この項目が最上位に来る傾向は、その後の年度調査でも大きくは変わっていません(最新年度の数値は下記「主な出典」の内閣人事局公表資料をご確認ください)。

「待遇への不満」よりも先に「仕事の中身」が来る点は、公務員の離職を理解するうえで重要なポイントです。

背景として、人事院の人事行政諮問会議の資料などでは、業務の効率化の遅れ、国会対応をはじめとする業務負荷、人材育成・配置のあり方といった課題が、公務組織の人材確保・定着の論点として整理されています。

一方で、「前例踏襲で自分の裁量が小さい」「数年ごとの異動で専門性が積み上がらない」といった語り口は、体験談やコラムで頻繁に見られるものの、公的な調査で検証された事実というわけではありません。あくまで一般に語られる説として受け止めてください。公平性・継続性・説明責任を担保するための仕組みが、人によっては窮屈に感じられる——という相性の問題であって、仕組みそのものの良し悪しの話ではありません。

上位2:収入・給与体系への不満

令和4年度調査では「収入が少ない」が39.7%で2位でした。

ここで問題になっているのは、絶対額よりもカーブの形である可能性があります。公務員給与は給料表に基づく年功的な構造が基本で、若手のうちは同年代の民間企業(特に都市部・成長業種)と比べて伸びが緩やかに感じられやすい一方、長期では安定します。

なお、厚生労働省「雇用動向調査」では、転職者が前職を辞めた理由として「給料等収入が少なかった」が男性で上位に挙がっており、これは公務員に限らない一般的な傾向です。

上位3:長時間労働と生活との両立

令和4年度調査では「長時間労働で家庭生活との両立が難しい」が34.0%で3位でした。

公務員の勤務時間は、部署差・時期差が非常に大きいのが実態です。

  • 議会対応、予算編成期、税・出納の繁忙期、選挙事務
  • 災害対応や感染症対応などの非常時業務
  • 年度替わりの手続き集中期

これらが重なる部署と、そうでない部署とでは、同じ組織内でも働き方が大きく異なります。人事院の調査でも、職員が職場に求めるものとして「過度な超過勤務・深夜勤務の削減」が最多で挙がり、フレックスタイム制やテレワーク活用への要望が続いています。忙しさそのものより、「配属によって生活が大きく左右される」構造が負担として語られやすい面があります。

統計には現れにくいが、繰り返し指摘される論点

ここから先は、上記アンケートの選択肢としては集計されていない論点です。順位付けできる性質のものではないため、番号を振らずに並べます。それぞれ根拠の強さが異なる点にご留意ください。

人間関係・組織文化・異動

厚生労働省「雇用動向調査」では、転職者が前職を辞めた理由として「職場の人間関係が好ましくなかった」が、特に女性で上位に入ります。これは業種横断の傾向であり、公務職場に固有のものではありません。

公務員に比較的特有の事情として挙げられるのは、異動の裁量が本人側に少ない点です。民間でも配属は会社が決めますが、自治体・省庁では数年ごとに職務内容がまったく変わることも珍しくありません。「人間関係も業務も異動でリセットされる」ことは救いにもなりますが、「合わない環境を自分では選び直せない」という感覚にもつながります。

なお、ハラスメントについては、人事院がパワー・ハラスメント等の苦情相談を受け付け、件数を公表しています。ただし、これは相談窓口に寄せられた件数であって、公務職場での発生率が民間より高い/低いことを示すデータではありません。

住民・利害関係者への対応(感情労働の負荷)

窓口業務、苦情対応、説明会対応などは、相手の怒りや不安を正面から受け止める仕事です。こうした感情労働の負荷は統計の項目として単独では現れにくいものの、体験談やインタビュー記事では頻出します(この論点は公的統計で直接裏づけられているものではありません)。

制度上できないことを「できない」と伝える役回りを担う場面が多く、努力と評価が結びつきにくいと感じられやすい領域だと言われます。

心身の不調

一般財団法人地方公務員安全衛生推進協会「地方公務員健康状況等の現況」によると、「精神及び行動の障害」による長期病休者は、令和5年度で職員10万人あたり2,286.4人(対象職員の約2.3%)。これは10年前の約1.9倍とされています。なお、この調査は首長部局の一般職員が対象で、警察・消防・教員は含まれません。

離職の直接理由として本人が挙げるかどうかは別として、休職を経て退職に至る経路が一定数存在することは、データからも読み取れます。

人手不足と業務量のミスマッチ

職員数を抑えつつ業務範囲が広がると、欠員が出たときの負荷が残った人に集中します。若手の退職が増えると翌年の負荷が上がり、さらに退職が出る——という循環は、公務に限らず多くの組織で共通して指摘される構造です。

「辞めたい」と「辞める」の間には距離がある

大事な前提として、離職意向を持つ人と実際に辞める人は同じではありません。

内閣人事局の働き方改革職員アンケートでは、令和6年度調査で数年以内の離職意向を持つ職員は約9%、「今の仕事を続けたい」と答えた職員は約48%と報じられています(いずれも同一年度・同一調査の数字です)。一方、令和4年度調査では、30歳未満の離職意向が男性13.5%・女性11.4%と、全体より高い水準が示されていました。年度によって数値は動くため、異なる年度の数字を並べて比較しないよう注意が必要です。若手層についてはより高い水準を指摘する分析もあります。

いずれの年度でも共通して言えるのは、離職意向を示す職員の割合に対して、実際の普通退職率はずっと低いということです。ここから、「一度は辞めたいと思ったが、続けている人」が相当数いると整理できます。今そう感じていることは、あなたが公務員に向いていない証明ではありません。

用語解説

用語意味
普通退職定年・勧奨・早期退職募集制度によらない、本人の意思による退職。いわゆる自己都合退職に近い区分
勧奨退職任命権者の働きかけに応じて行う退職
一般行政職教員・警察・消防・医療職などを除く、事務系中心の職。統計では区分して集計されることが多い
総合職(旧・国家I種)国家公務員採用試験の区分の一つ。政策の企画立案等を担う職員の採用枠
給料表職務の級と号給で給与額が決まる表。年功的な昇給の基礎になる
ラスパイレス指数国家公務員給与を100とした場合の地方公務員給与水準を示す指数

今このテーマが読まれる理由

人材確保の環境も変化しています。人事院は毎年度、国家公務員採用試験の申込状況を公表しており、近年は年度・試験区分によって増減が分かれる状況が続いています。一般職試験(大卒程度)と総合職試験とで動きが逆になる年度もあり、入口の確保と、入った後の定着は別の課題として継続的に議論されています(最新年度の申込状況は人事院の報道発表をご確認ください)。

裏を返せば、公務員経験者を受け入れる民間側の関心も高まっている時期です。「辞めるかどうか」以前に、選択肢の相場感を知るタイミングとしては悪くありません。

続けるか、転職を考えるか:整理のための4つの問い

判断材料として、次の順で自分の状況を切り分けてみてください。

  • 不満の原因は「職業」か「配属」か。 異動で変わりうるものなら、まず庁内公募・希望調査・人事面談などの内部の仕組みを使う余地があります。
  • 時間の問題か、内容の問題か。 長時間労働は制度改正や部署異動で改善しうる一方、「仕事の中身に納得できない」はより構造的です。
  • 健康は後回しになっていないか。 睡眠や食事に影響が出ている場合は、キャリアの検討より先に産業医・共済の相談窓口の利用を優先する判断もあります。
  • 外の相場を知っているか。 年収・職種・働き方の選択肢を「知らないまま残る」のと「知ったうえで残る」のは、同じ在職でも納得感が違います。

転職サービスを比較するときの観点

公務員から民間への転職では、「未経験職種への応募になりやすい」「行政特有の経験を民間の言葉に翻訳する必要がある」といった論点がよく指摘されます。情報の質で差が出やすい部分なので、サービスは1社に絞らず、ジャンル別に併用する形が現実的です。

  • 総合型の転職エージェント:求人数が多く、職種・業界の相場感をつかむのに向く。最初の1社目に選ばれやすい
  • 公務員・行政出身者の支援に慣れたエージェント:経歴の棚卸しや職務経歴書の書き方(調整・折衝・制度運用の経験をどう表現するか)で助けになりやすい
  • 業界特化型エージェント:インフラ、コンサル、まちづくり・不動産、医療福祉、教育など、行政と接点のある領域に強みを持つところがある
  • 求人データベース型の転職サイト:相談せずに自分のペースで相場だけ見たい段階に向く
  • スカウト型サービス:登録情報に対して企業側から声がかかるため、市場からの見え方を測りやすい

いずれも登録=応募ではありません。担当者との相性差も大きいので、「合わなければ替えられる/使わない選択もある」という前提で見ておくと消耗しにくいはずです。

読み終えたあとの、現実的な次の一歩

いきなり結論を出す必要はありません。負担の軽い順に並べると、こうなります。

  • 自分の不満を、上の「4つの問い」に沿って紙に書き分ける
  • 内部で使える制度(希望調査、庁内公募、時短・育児制度、相談窓口)を一度調べる
  • 転職サイトで、自分の年齢・地域・希望職種の求人の相場だけ見てみる
  • 必要を感じたらエージェント2社程度に登録し、経歴の評価を聞いてみる
  • そのうえで、「残る」「時期を決めて動く」「今動く」のどれかを選ぶ

「残る」も、ちゃんと選んだ選択です。

関連して読まれやすいテーマ(当サイトの他記事)

  • 教員の離職理由と実態を統計から整理
  • 看護師・介護職の離職率と辞めたい理由
  • 警察官・消防士の離職の背景
  • 銀行・信用金庫など安定志向で選ばれた職種の離職理由
  • 第二新卒・20代の「早期離職」をどう説明するか

数値の取り扱いについて:本文中の数値は、各調査の公表時点のものです。調査によって対象(国家/地方、職種区分)・母数・年度が異なるため、異なる調査の数字をそのまま比較することはできません。公務員の働き方や退職の事情は、国・都道府県・市区町村、職種(一般行政職・専門職・公安職・教育職など)、配属部署によって大きく異なり、ここで挙げた理由がすべての人に当てはまるわけではありません。同じ環境でやりがいを感じて長く働く人が多数いることも、統計が示している事実です。

主な出典