「ITエンジニアは辞める人が多い」——ネット上でも、現場の雑談でも、よく聞く言葉です。実際に転職を考えている方なら、「自分だけがしんどいのか、それとも業界全体の構造なのか」を知りたいのではないでしょうか。

この記事では、厚生労働省の統計や調査機関のレポートをもとに、ITエンジニアが多く働く情報通信業の離職の実態と、離職理由として語られやすいテーマを整理します。あわせて、統計を読むうえでの限界についてもはっきり書いておきます。

なお、本記事では転職サービスのジャンルに触れる箇所があり、一部にアフィリエイトリンクを含む場合があります(掲載内容の選定に金銭的な影響は受けていません)。

はじめに:この記事の統計には「読み方の限界」があります

本題に入る前に、最も大事な前提をお伝えします。

公的統計に「ITエンジニア」という区分の離職率は、単独では整備されていません。そのため本記事では情報通信業(ソフトウェア業、情報処理・提供サービス業、通信業、放送業、インターネット附随サービス業などを含む産業区分)の数字を参照します。ただし、この産業区分と「ITエンジニアという職種」は、次の点でズレがあります。

  • 情報通信業の外にも、ITエンジニアは大勢いる:製造業や金融業、小売業などに勤める社内SE・情報システム部門の方は、それぞれの産業に計上されます。
  • 情報通信業の中には、エンジニア以外の職種も多く含まれる:営業、企画、管理部門、放送・出版・コンテンツ系の職種なども同じ区分に入ります。

つまり、以下で紹介する数字は「ITエンジニアという職種の離職率」そのものではなく、あくまで近い領域を含む産業の傾向です。この点を踏まえたうえで、参考値としてお読みください。

統計で確認:情報通信業の離職率と、その注意点

数字そのもの

厚生労働省「令和6年雇用動向調査」によると、情報通信業の離職率は12.4%、入職率は10.2%でした。一方、全産業計は離職率14.2%、入職率14.8%です(いずれも常用労働者ベース)。

この2つを並べる限り、情報通信業の離職率は全産業計よりやや低い水準にあります。

ただし「低い=安心」と読むのは早い、3つの理由

1. 産業間の単純比較には構造的なバイアスがある

雇用動向調査の離職率は、パートタイム労働者の比率が高い産業ほど高く出やすい性質があります。パートの入退職は一般労働者より頻度が高いためです。情報通信業は正社員(一般労働者)の比率が高い産業なので、離職率が相対的に低く出るのは、働きやすさというより構成の違いによる面が大きいと考えられます。

参考までに、令和6年調査で宿泊業・飲食サービス業の離職率は一般労働者18.1%、パートタイム労働者29.9%と、就業形態によって数字が大きく異なります。分母をそろえずに産業同士を比べても、あまり意味のある結論は出ません。この記事の数字も、そうした限界を持つものとして扱ってください。

2. 情報通信業は「離職超過」である

見落とされやすいのがこちらです。令和6年の全産業計は入職率14.8%>離職率14.2%で、0.6ポイントの入職超過(入ってくる人のほうが多い)でした。これに対し情報通信業は入職率10.2%<離職率12.4%で、2.2ポイントの離職超過です。

つまり情報通信業について統計から言えるのは、「辞める人が特別に多い」ではなく、むしろ「辞める人は平均より少ないが、それ以上に新しく入ってくる人が少ない」という姿です。これは働く側から見れば人手が薄くなりやすい環境を意味し、後述する負荷の問題ともつながり得ます。安心材料としてだけ受け取るべき数字ではありません。

3. 新卒3年以内離職率について

厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況」(令和4年3月卒業者・2025年10月公表)によると、大学卒の就職後3年以内離職率は33.8%でした。前年公表分(令和3年3月卒)の34.9%から1.1ポイント低下しています。

なお、産業別の3年以内離職率については、本記事では確かな数値を確認できませんでした。情報通信業が高いとも低いとも書けないため、詳細は厚生労働省の公表資料を直接ご確認ください。また、令和5年3月卒業者の数字は今後公表される見込みです。

では、なぜ「辞める人が多い」と感じられるのか

統計上の離職率が平均を下回っているのに、体感として「よく辞める職種」と語られる。このギャップの理由としては、いくつかの見方が挙げられます。ただし以下は筆者の整理であり、それぞれを裏づける統計を示せているわけではありません。仮説としてお読みください。

  • 転職の心理的ハードルが比較的低いとされる:使用技術や担当工程でスキルを説明しやすく、同業他社への移動がキャリアアップとして受け止められやすい職種と言われます。
  • 発信が活発な職種である:技術ブログやSNSに退職の経緯を書く文化があり、離職が「語られる量」が多い。実際の人数以上に目に入りやすくなります。
  • 業界内での移動が含まれる:離職者のすべてが業界から退出しているわけではなく、IT領域の別企業へ移るケースも含まれます。

「辞める人が多い」というより「動きやすい職種である」という見方もできる、という程度にとどめておくのが、手元の根拠から言える範囲だと考えます。

ITエンジニアの離職理由として語られやすい6つのテーマ

ここからは、各種の転職実態調査や業界レポートで繰り返し挙げられるテーマを整理します。あくまで語られやすい傾向であり、すべての方に当てはまるものではありません。

1. 給与・評価制度への納得感

エンジニアの転職理由を扱った民間調査では、収入や待遇に関する項目が上位に入ることがあります。たとえばレバテックキャリア(レバレジーズ株式会社)が2022年9月に実施した調査(有効回答300人)では、転職を決めた理由の第1位が「収入アップのため」で42.4%でした。

ただし、この調査は回答者300人・実施から数年が経過したものであり、なおかつ調査主体は転職支援サービスを運営する事業者です(本記事も転職サービスの案内を収益源としています)。同種の調査は調査設計によって結果が振れやすいため、「傾向の一例」として受け取るのが適切です。

制度面の背景としては、次の2点を分けて押さえると整理しやすくなります。

  • IPA「DX動向2025」の調査結果として:DXを推進する人材について「やや不足」「大幅に不足」と回答した国内企業は合計85.1%。需要側の逼迫は数字で確認できます。
  • 同レポートを解説した報道・論考の見解として:日本企業の評価・報酬制度が年功序列やゼネラリスト前提のまま残っており、専門人材の市場価値と処遇が連動しにくい、という指摘があります。これはIPAの集計値そのものではなく、解説側の分析です。

いずれにせよ、「仕事の難易度は上がっているのに等級や給与テーブルが変わらない」という感覚については、個人の能力ではなく制度設計の側に要因がある可能性も考えられます。ご自身のケースがどちらなのかは、社内の等級定義や、外部での評価(後述)と突き合わせて確かめるしかありません。

2. 多重下請け構造と、裁量のばらつき

IT業界特有のテーマとしてよく挙げられるのが、いわゆる多重下請け構造です。大規模案件では元請けから二次請け、三次請けへと発注が連鎖し、階層が深くなるほど中間マージンが重なる——という指摘があります。

ただし、この点について本記事が参照できた解説は業界事業者による情報発信が中心で、階層の深さと現場の裁量の関係を定量的に示した公的統計は確認できていません。構造として語られやすいテーマである、という以上の断定は避けます。

現場から語られやすい体験としては、次のようなものがあります。

  • 技術選定や設計に関われず、担当範囲が限定される
  • 成果物がエンドユーザーに届く実感を持ちにくい
  • 「誰のために作っているか」が見えにくい

一方で、下請けの立場であっても、社会インフラや金融系など極めて高い品質保証・信頼性設計が求められる領域を担うケースは多く、そこで培われる専門性は市場で高く評価されることもあります。契約形態や階層そのものが働きがいを決めるわけではなく、案件内容・顧客・配属先チームによって体験は大きく異なります。SESや客先常駐という働き方自体を、一括りに評価するのは適切ではありません。

3. 学び続けるための時間をどう確保するか

技術の更新速度が速く、継続的な学習が求められる職種であることは、多くの方が挙げるポイントです。

ここで注意したいのは、これを「学び続けられる人には向いていて、そうでない人には向いていない」という個人の資質の話にしてしまわないことです。学習を継続できるかどうかは、意欲だけでなく、職場の時間設計に大きく左右されます。稼働率が常に高い状態が続く、研修や技術検証に業務時間を充てられない、業務外での学習が暗黙の前提になっている——こうした環境要因は、個人の努力とは別のレイヤーにあります。

生成AIの普及によって「この先どうなるのか」という不安が語られる機会も増えました。この点について、報酬や雇用への影響を示す確かなデータを本記事では確認できなかったため、断定的な記述は控えます。ただ、少なくとも言えるのは、技術の変化そのものより、変化に対応するための時間を確保できない働き方のほうが、日々の消耗に直結しやすいということです。

4. 労働時間・納期・障害対応の負荷

トラブルの続くプロジェクト、深夜のリリース作業、当番制の障害対応など、負荷が特定の時期・特定の人に集中しやすい構造があります。月平均の労働時間だけでは見えにくい「波の大きさ」が、心身の消耗につながることがあります。

前述のとおり産業レベルの離職率は平均を下回っている一方で入職が少ない状況を踏まえると、これは業界全体で一律に起きていることというより、プロジェクト単位・組織単位のばらつきとして理解するほうが実態に近いと考えられます。同じ肩書きでも、現場によって働き方はまったく違います。

5. キャリアパスの分岐点

30代前後で直面しやすいのが、「マネジメントに進むか、技術を深めるか」という分岐です。

  • スペシャリスト職の等級が用意されておらず、昇進=管理職しか道がない
  • 逆に、マネジメントを志望しても機会が回ってこない
  • 同じ技術スタックの保守運用が続き、スキルの停滞を感じる

「今の会社にいると、5年後の自分が想像できてしまう(あるいは想像できない)」という感覚は、待遇への不満とは別種の検討理由として語られます。

6. 働き方(リモート/出社方針)の変化

コロナ禍で広がったリモートワークについて、近年は出社回帰の動きも報じられています。一部の市場レポートでは、フルリモート案件が絞られる一方で常駐・出社前提の案件の条件が上向くという指摘も見られますが、これは限られた媒体による観測であり、公的統計や大規模調査で裏づけられたものではありません。傾向の一つの見方として扱ってください。

いずれにせよ、入社時の前提だった働き方が変わったことが転職検討のきっかけになるケースは、実感として語られやすくなっています。これは待遇でも人間関係でもなく、生活設計との不整合という理由です。

用語のおさらい(業界外の方向け)

用語意味
SESシステムエンジニアリングサービス。技術者の技術力・労働時間を提供する契約形態。客先に常駐して働くことが多い
客先常駐自社ではなく顧客企業のオフィスに出向いて業務を行う働き方
多重下請け構造元請け→二次請け→三次請け…と発注が階層化する構造。階層が深いほど中間マージンが重なるとされる
SIerシステムインテグレーター。企業向けシステムの企画・開発・運用を請け負う事業者
上流工程/下流工程要件定義・設計などを上流、実装・テスト・運用などを下流と呼ぶ慣習的な区分。工程の呼称であって、難易度や重要度の上下を意味するものではありません
技術スタック業務で使う言語・フレームワーク・インフラなどの組み合わせ

「辞めたい」を分解する:転職で変わること・変わらないこと

同じ「辞めたい」でも、原因の所在によって打ち手は変わります。感じ方は人それぞれで、以下の分類がすべての方に当てはまるわけではありませんが、整理の出発点として使ってみてください。

環境を変えると解消しやすいもの

  • 給与テーブルや評価制度が、実際の業務内容と合っていない
  • 担当できる工程が限定され、裁量を持ちにくい
  • 学習や技術検証の時間を確保できない働き方が常態化している
  • リモート/出社の方針が生活と合わない

環境を変えても持ち越しやすいもの

  • 技術の学び直しが継続的に必要であること(職種そのものの性質)
  • 納期や品質責任が伴うこと
  • 対人調整・仕様調整が発生すること

前者が主因なら、ITエンジニアのまま職場や業態を変えるだけで状況が改善する可能性があります。後者が主因なら、職種や役割そのものを見直す(社内SE、IT企画、テクニカルサポート、教育・カスタマーサクセスなど)選択肢も検討の余地があるかもしれません。

なお、心身の不調を感じている場合は、キャリアの判断より先に休養や医療機関の受診を優先してください。判断力が落ちている状態での大きな決断は、後悔につながりやすいものです。

続けるか、動くか。判断材料の集め方

「すぐ辞める/辞めない」の二択にする必要はありません。多くの方がまず行うのは、自分の条件が市場でどう評価されるかを知ることです。今回見たとおり、統計は産業単位の粗い解像度しか教えてくれません。ご自身の状況を測るには、自分の条件を具体的に当ててみるのが結局は近道です。

情報収集の手段には、いくつかのジャンルがあります。特定の1社が万能ということはないので、目的に応じて使い分けるのが現実的です。

  • IT・エンジニア特化型の転職エージェント:技術スタックや担当工程レベルでの求人マッチング、年収相場のすり合わせに向いています
  • 総合型の大手転職エージェント:他職種への転換も視野に入れる場合、選択肢の幅を確認できます
  • スカウト型の転職サイト・プラットフォーム:登録して届くオファーの内容から、自分への需要を受け身で測れます
  • フリーランス/業務委託系のエージェント:雇用形態そのものを変える選択肢を比較したい場合に

複数に登録して「提示される年収レンジ」「紹介される工程・ポジション」を見比べると、今の職場の条件が相対的にどうなのかを把握しやすくなります。動くと決めていなくても、比較の材料を持っておくこと自体に価値があります。

なお、前述のとおり、転職支援サービスが公表する調査データはその事業者の立場が反映され得るものです。エージェントから受ける説明も同様に、複数の情報源と突き合わせて判断されることをおすすめします。

まとめ

  • 情報通信業の離職率は12.4%、入職率は10.2%(令和6年雇用動向調査)。全産業計は離職率14.2%、入職率14.8%
  • ただし産業間の離職率比較にはパート比率などの構造的な差があり、単純比較には限界がある
  • 情報通信業は「離職率は平均より低いが、入職がそれ以上に少ない(2.2ポイントの離職超過)」という状態にある
  • そもそも「情報通信業」と「ITエンジニアという職種」は範囲が一致せず、統計はあくまで参考値
  • 語られやすい離職理由は、給与と評価の納得感、多重下請け構造と裁量、学習時間の確保、負荷の偏り、キャリアパスの分岐、働き方の変化
  • 「辞めたい」の原因が環境由来か職種由来かで、取るべき打ち手は変わる

最後に改めてお伝えしたいのは、ITエンジニアという仕事の受け止め方は人によって大きく異なるということです。同じ統計を見ても、「思ったより普通だな」と感じる方もいれば、「自分の職場は例外的にしんどいのかもしれない」と気づく方もいるはずです。この記事の数字が、ご自身の状況を客観的に位置づけるための、ひとつの物差しになれば幸いです。


出典

  • 厚生労働省「令和6年雇用動向調査結果の概要」(2025年公表)
  • 厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(令和4年3月卒業者)」(2025年10月公表)
  • 独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「DX動向2025 - AI時代のデジタル人材育成」(2025年公表)
  • ITmedia エンタープライズ「IPA『DX動向2025』の裏側 DX人材が"お手並み拝見状態"に陥る構造的な理由」(解説記事。評価制度に関する見解は同記事によるもの)
  • レバテックキャリア(レバレジーズ株式会社)「エンジニアが転職を決めた理由」調査(2022年9月実施、有効回答300人)
  • 各種業界メディアによる市場動向レポート(リモート/出社動向に関する記述の参考)

※本記事の数値は公表時点のものです。雇用動向調査および新規学卒就職者の離職状況は毎年更新されるため、最新の数値は各公表資料をご確認ください。