「営業はきつい」「営業は離職率が高い」——そんな言葉を、一度は耳にしたことがあるかもしれません。実際に今まさに数字に追われていて、「これをあと何年続けるんだろう」と考えている方もいると思います。
この記事では、営業職の離職について、厚生労働省の公的統計や民間調査のアンケートをもとに、できるだけ事実ベースで整理します。「営業はやめたほうがいい」と言いたい記事ではありません。同じ仕事でも、やりがいを感じて長く続ける人と、消耗してしまう人がいます。その分かれ目がどこにあるのかを、データから一緒に見ていくのが目的です。
※本記事では、話の流れの中で転職支援サービスのジャンルに触れる箇所があり、一部にアフィリエイトリンクを含む場合があります。
まず前提:「営業職の離職率」という公的統計は存在しない
意外に思われるかもしれませんが、「営業職の離職率は○○%」と一発で分かる公的統計は、実はありません。
厚生労働省の「雇用動向調査」は、離職率を産業別(卸売業・小売業、製造業、情報通信業など)と職業別(販売従事者、専門的・技術的職業従事者など)に分けて集計しています。しかし、この「販売従事者」には店頭販売の仕事なども含まれ、いわゆる法人営業・ルート営業・保険や不動産の営業などを一括りにした「営業職」というカテゴリとは一致しません。
つまり、ネット上でよく見かける「営業職の離職率は○%」という数字の多くは、産業別データや民間アンケートを営業職に読み替えたものです。本記事でも、その出どころを都度明示しながら進めます。以下で紹介する産業別の数値は、あくまで産業全体の参考値であり、そこから営業職の離職率を直接読み取ることはできない点を、先にお断りしておきます。
【用語メモ】
- 入職率/離職率:1年間の入職者数・離職者数を、年初の常用労働者数で割った割合。
- 離職超過:離職者数が入職者数を上回っている状態。人の出入りのうち「出る」ほうが多い。
- インサイドセールス:訪問せず、電話やオンラインで商談を進める営業スタイル。
統計で見る、働き手の動きの全体像
卸売業・小売業は「人の出入りの絶対数」が大きい産業
厚生労働省「令和6年雇用動向調査」(通年)によると、主要産業のうち卸売業・小売業は、入職者数が約138.4万人、離職者数が約142.7万人と、いずれも産業別で最も多い水準でした。離職者数が入職者数をやや上回っています。
ただし繰り返しになりますが、これは産業単位の集計です。卸売業・小売業には店舗スタッフや物流・管理部門など多様な職種が含まれており、この数字から「営業職が辞めやすい」と結論づけることはできません。あくまで「規模が大きく、人の出入りの絶対数も大きい産業がある」という全体像の把握として受け取ってください。
なお令和6年の入職率・離職率は、全体としては前年より低下しており、「日本全体で離職が急増している」という状況ではない点も押さえておきたいところです。
「入って3年」のハードルは業種差が大きい
厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況」によると、令和3年3月に卒業した大学卒業者の就職後3年以内離職率は34.9%でした。近年はおおむね3割台前半で推移しています。
注目したいのは、この数字が業種によって大きく開くことです。宿泊業・飲食サービス業や生活関連サービス業・娯楽業では5割前後に達する一方、電気・ガス・熱供給・水道業や製造業などは1〜2割台にとどまります。同じ「新卒3年」でも、置かれた環境で結果はまったく違うということです。
ここから読み取れるのは、職種そのものより、どの業界・どの条件で働くかが実態を大きく左右するということ。「営業だから辞める」のではなく「その営業の条件だから辞める」ケースが少なくない、という読み方ができます。
辞めた理由の全体傾向
同じく「令和6年雇用動向調査」で、転職入職者が前職を辞めた理由を見ると、「その他の個人的理由」を除いた場合、男性では「定年・契約期間の満了」(14.1%)が最も多く、次いで「給料等収入が少なかった」(10.1%)が挙がっています。女性では「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」(12.8%)が上位です。また前年と比べ、「会社の将来が不安だった」を挙げる男性が増加した点も特徴として報告されています。
つまり全体で見れば、退職理由の最上位には定年・契約満了といった制度上の区切りも含まれます。「不満で辞める人ばかり」という前提で数字を読まないことが大切です。
営業職特有の「辞めたい理由」——民間調査から
公的統計は職種を細かく分けませんが、民間調査には営業職に焦点を当てたものがあります。
日本労働調査組合が2021年に20〜49歳の会社員531名を対象に実施したアンケート(「営業職の退職動機に関するアンケート」として公表)では、退職を検討したことがある人は80.8%にのぼりました。辞めたくなった理由の上位は次の通りです。
- 給料が安い(32.4%)
- 長時間労働(30.1%)
- モチベーションの維持が難しい(29.4%)
この調査の読み方について注意点があります。公表から5年が経過した単一調査であり、サンプル数も531名と限られています。また、調査対象の表記は媒体によって「営業職」「会社員」と揺れがあり、母集団の定義を厳密に確認しきれていません。あくまで「ひとつの参考値」として扱い、これだけで営業職全体を語らないほうが安全です。
なお、会社員全体を対象とした各種調査で上位に入りやすい「職場の人間関係」が、この調査では相対的に上位ではありませんでした。ただしこれは母集団も実施時期も異なる調査同士の比較であり、「営業職は人間関係で悩まない」と一般化できるものではありません。あくまで、この調査では収入・労働時間・モチベーションに回答が集まった、という限定的な読み取りにとどめます。
以下、営業職の「辞めたい」として語られやすい要因を分類して整理します。
1. 目標(ノルマ)と評価のプレッシャー
ここで注意したいのが、「営業=ノルマがきつい」というイメージと、実際に働いている人の感覚を混同しないことです。
女の転職typeの調査(2021年)では、営業職未経験の女性が「営業職になりたくない理由」として「ノルマがきつそう」を挙げた割合が70.1%で最多でした。ただしこれは未経験者が抱くイメージの集計であり、実態を測ったデータではありません。
一方、営業経験者の回答では「精神的に辛い」が約6割で最多となる一方、「達成感が味わえる」といった肯定的な項目も上位に挙がっています。同じ目標管理の仕組みでも、達成感の源泉になる人と重荷になる人に分かれる——経験者データが示しているのは、むしろこの「分かれ方」のほうです。
2. 成果と報酬が釣り合わない感覚
「給料が安い」が上位に来やすい背景には、金額の絶対値だけでなく、成果に対する納得感の問題があると指摘されることがあります。インセンティブの設計、既存顧客の引き継ぎ量、担当エリアの条件など、自分の努力だけでは動かしにくい要素が成績に影響する場面もあり、そこに納得しきれないと感じる人もいます。
もちろん、評価制度の作り方は企業によって大きく異なります。業界全体の報酬制度が一律に不公平だ、ということではありません。
3. 労働時間の読みにくさ
顧客都合で動く場面が多い仕事のため、移動・急な対応・持ち帰り仕事が発生しやすく、時間が読みにくいという声があります。長時間労働が上位に入るのは、総量の多さだけでなく、この「コントロールしづらさ」も一因と考えられます。
4. 数字がリセットされ続ける精神的負荷
「モチベーションの維持」が上位に入るのは営業職らしい結果です。月次・四半期で成績がゼロに戻る構造は、達成感の回転が速いという利点がある一方で、終わりが見えにくい感覚につながることもあります。
5. 商材やキャリアの将来性への不安
雇用動向調査で「会社の将来が不安だった」を挙げる人が増えている傾向は、営業職でも無関係ではないでしょう。扱う商材の競争力や、自分が身につけているスキルが他社でも通用するのかという不安が、転職検討のきっかけになることがあります。
一方で、続けている人が挙げる理由もある
ここまで離職側の話を続けましたが、当然ながら営業職の全員が辞めたいわけではありません。
先ほどの女の転職typeの調査でも、営業経験者の回答には「精神的に辛い」と並んで「達成感が味わえる」が上位に入っています。同じ人が、つらさと手応えの両方を同時に挙げているのです。ほかにも「裁量が大きい」「成果が評価に反映されやすい」「社外に人脈が広がる」といった点を魅力として挙げる人は多く、感じ方には大きな個人差があります。
また、日本労働調査組合の調査で「退職を検討したことがある」が8割という数字も、裏を返せば検討した人の多くが実際には続けているということでもあります。「一度も辞めたいと思ったことがない」ほうがむしろ珍しい、という見方もできるでしょう。
さらに近年は、営業のかたちそのものが多様になっています。インサイドセールスとフィールドセールスの分業、CRMやオンライン商談ツールの普及により、訪問中心以外の進め方を選べる職場が増えました。訪問型の営業が古いということではなく、選択肢の幅が広がったということです。同じ営業職の中でも、環境を変えることで負荷の質が変わる可能性があるのは、この職種の特徴といえます。
紹介した統計や調査は、いずれも全体の傾向を示すものであり、個々の職場や個人にそのまま当てはまるわけではありません。業界・商材・評価制度・チームによって、働き方もやりがいの感じ方も大きく変わります。
辞める前に切り分けたい3つの問い
「辞めたい」が浮かんだとき、いきなり結論を出す前に、原因がどの層にあるのかを分けて考えると判断しやすくなります。
- 仕事内容の問題か:数字を追うこと自体が合わないのか、それとも今の商材・売り方が合わないのか。
- 職場環境の問題か:目標設定や評価制度、労働時間の管理は、同業他社と比べてどうか。
- 一時的な状態か:繁忙期、異動直後、体調など、時間で変化しうる要因が大きくないか。
1が理由なら職種を変える選択、2が理由なら同職種で環境を変える選択、3が理由ならまず休養や上長への相談が現実的、というように、次の一手が変わってきます。
選択肢を知っておく、という準備の仕方
転職するかどうかは別として、自分の市場価値や他社の条件を知っておくこと自体は、今の職場に残る判断にも役立ちます。「比べた上で残る」と「比べずに我慢する」では、日々の納得感がかなり違うからです。
情報の集め方には、いくつかのジャンルがあります。
- 総合型の転職エージェント:求人数が多く、営業から他職種への転換も含めて広く相談しやすい。
- 営業職・業界特化型のエージェント:商材別・営業スタイル別の内情や評価制度に詳しい傾向がある。
- 転職サイト(求人検索型):自分のペースで条件相場を確認したいときに向く。
- スカウト型サービス:登録しておくと、他社からどう評価されるかの目安が分かる。
特定の1社だけが正解ということはなく、実際に複数のサービスを併用して比較する利用者は少なくありません。担当者との相性もあるため、合わないと感じたら変えるという前提で使う人もいます。相談したからといって、転職を決めなければならないわけでもありません。
まとめ
- 「営業職の離職率」という公的統計は存在せず、産業別・職業別データや民間調査から推測されているにすぎない。
- 厚生労働省「令和6年雇用動向調査」では、卸売業・小売業の入職・離職の実数が最も多いが、これは産業全体の数字であり営業職の離職率ではない。
- 新規大卒者の3年以内離職率は34.9%(令和3年3月卒)。業種によって1〜2割台から5割前後まで開きがあり、職種より「どの環境か」の影響が大きい。
- 営業職に焦点を当てた民間調査では「給料が安い」「長時間労働」「モチベーション維持」が上位。ただし5年前の単一調査であり、参考値として扱うのが妥当。
- 「ノルマがきつそう」という数字の多くは未経験者のイメージ。経験者の回答では「辛さ」と「達成感」が同居しており、感じ方は人それぞれ。
- 辞めるかどうかの前に、原因が「職種」「環境」「一時的要因」のどこにあるかを切り分けると判断しやすい。
出典
- 厚生労働省「令和6年 雇用動向調査結果の概況」(2025年公表) https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/25-2/index.html
- 厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(令和3年3月卒業者)」 https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000177553_00007.html
- 日本労働調査組合「営業職の退職動機に関するアンケート」(2021年、20〜49歳の会社員531名) https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000011.000074057.html
- 女の転職type「約7割の女性が営業職にはなりたくない!」(2021年) https://woman-type.jp/academia/newsrelease/2021y/post-69/
- 女の転職type「アンケート調査:営業ってどう?」 https://woman-type.jp/academia/discover-career/data/vol-39/