※この記事には、転職エージェント・転職サイトなど関連サービスの紹介(アフィリエイトリンクを含む場合があります)が登場することがあります。内容は公的統計や公開調査をもとに、中立的な整理を心がけて作成しています。
はじめに:「介護はすぐ辞める」というイメージは、どこまで本当か
「介護の仕事は離職率が高い」「人がどんどん辞めていく」——介護の現場で働く方なら、一度は耳にしたことがあるかもしれません。実際に今、辞めたい気持ちを抱えながらこの記事を開いた方もいるでしょう。
ただ、統計を丁寧に見ていくと、このイメージは一部が当たっていて、一部は最新の実態とずれています。介護職員の離職率はここ数年、低下傾向にあります。一方で、「辞めたい」と感じる要因そのものは、賃金・人手不足・身体負担・人間関係といった形で確かに存在し続けています。
この記事では、公益財団法人介護労働安定センターや厚生労働省の調査をもとに、介護士の離職率と離職理由を数字で整理します。そのうえで、「今の職場を続けるか、環境を変えるか」を自分の状況に当てはめて考えるための材料をお届けします。
なお、感じ方は人によって大きく異なります。同じ職場でもやりがいを感じて長く働く方は大勢いますし、統計上の数字がそのままあなたの状況を説明するわけではない、という前提でお読みください。
1. 数字で見る:介護職の離職率は「下がっている」
まず押さえておきたいのが、離職率の水準と推移です。公益財団法人介護労働安定センター「令和6年度 介護労働実態調査」(2025年7月公表)によると、次のようになっています。
| 区分 | 離職率 | 採用率 |
|---|---|---|
| 2職種計(訪問介護員+介護職員) | 12.4% | 14.3% |
| うち介護職員 | 12.8% | — |
| うち訪問介護員 | 11.4% | — |
2職種計の12.4%は、2年連続の低下です。かつて介護業界の離職率は20%前後とされた時期もあり、処遇改善の取り組みなどを背景に、長期的には下がってきました。
「全産業平均より低い」と単純には言い切れない
よく「介護の離職率は全産業平均より低い」と紹介されますが、ここは慎重に見る必要があります。
厚生労働省「令和6年 雇用動向調査」の離職率は全体で14.2%。ただしこれはパートタイム労働者を含む数字で、雇用形態別に見ると一般労働者は11.5%、パートタイム労働者は21.4%です。介護側の12.4%を一般労働者の11.5%と並べれば、介護のほうがやや高いことになります。
さらに、雇用動向調査(事業所を抽出した暦年ベースの政府統計)と介護労働実態調査(任意回答・回収率約52.9%の年度ベース調査)は、調査主体も対象期間も定義も異なります。厳密に同じ土俵で比較できる数字ではない、という前提を持っておくのが安全です。
言えるのはおおむね次の範囲です。
- 介護職の離職率は、かつて言われたほど突出して高い水準ではなくなってきている
- ただし「全産業平均より明確に低い」と言い切れるほど単純な比較ではない
ではなぜ「みんな辞めていく」という実感が消えないのか
(1) 採用が追いつかず、人手不足感が解消されていない
同じ調査で、事業所の人材不足感(「大いに不足」「不足」「やや不足」の合計)は全職種ベースで65.2%。職種別に見ると介護職員69.1%、訪問介護員83.4%と、特に訪問系で逼迫が際立ちます。採用率も直近では低下しており、「辞める人は減ったが、入ってくる人も減った」状態です。1人抜けたときの穴が埋まらないため、現場の体感としては「常に人が足りない=人が辞め続けている」ように映ります。
(2) 事業所によって状況の差が大きい
離職率は事業所の規模や運営体制によってばらつきがあり、同じ「介護職」という括りの中でも、定着している職場と入れ替わりの多い職場が併存しています。「介護職だから離職率が高い」というより、「職場によって状況がかなり違う」と捉えるほうが実態に近いでしょう。
ここが一つの分かれ目です。 もしあなたが「周りが次々辞めていく」と感じているなら、それは介護という職種全体の性質というより、今いる職場固有の要因である可能性があります。この切り分けが、後で述べる判断のポイントになります。
2. 辞める理由の上位は「人間関係」と「運営方針」
介護労働安定センターの調査では、直前の職場(介護関係)を辞めた理由が集計されています。主な上位項目は次のとおりです(複数回答、令和6年度調査)。
| 順位 | 理由 | 割合 |
|---|---|---|
| 1位 | 職場の人間関係に問題があったため | 約34% |
| 2位 | 法人や施設・事業所の理念や運営のあり方に不満があったため | 約26% |
| 3位 | 他に良い仕事・職場があったため | 約20% |
上位2つがいずれも「職場そのもの」に関する理由である点が目を引きます。
ただし、この数字には読み取り上の注意点がある
重要な前提として、この設問は「現在介護の仕事に就いている人」に、前職(介護関係)を辞めた理由を聞いたものです。つまり、介護業界そのものを離れてしまった人の理由は集計に含まれていません。
介護職を続けている人の回答が母集団である以上、「職場を変えれば解決した要因」が相対的に多く現れやすい構造になっています。したがって「仕事内容がつらいから辞めるのではない」と断定することはできません。この調査から言えるのは、『介護職を続けている人の中では、転職理由として職場要因が上位を占める』というところまでです。
人間関係の内訳:退職者本人の受け止めとして
まず押さえておきたいのは、人間関係は悪化要因にもなれば改善要因にもなる、ということです。離職率が改善した事業所がその理由に挙げた項目の1位は「職場の人間関係がよくなったから」(約64%)でした。変えられる余地のある領域だと言えます。
そのうえで、人間関係を退職理由に挙げた人への深掘り調査では、次のような項目が挙がっています(複数回答)。
- 上司の思いやりのない言動、きつい指導、パワーハラスメントなどがあった:約49%
- 上司の管理能力が低い、業務指示が不明確、リーダーシップがなく信頼できなかった:約43%
- 同僚・部下の思いやりのない言動、きつい指導、ハラスメントなどがあった:約26%
- 経営者の考え方・経営理念に共感できなかった:約25%
上司に関する項目が比較的高く出ていますが、これは退職を選んだ本人による前職への主観的評価であり、複数回答です。同僚・部下に関する項目も一定割合あり、「介護現場の管理職は総じて問題がある」という話ではありません。多くの管理者は限られた人員と報酬の中で現場を回す難しい立場にあり、構造的な制約が個人の言動として表面化している面もあります。あくまで「退職した人が、何を決め手と受け止めたか」の分布として読むのが適切です。
賃金は「1位ではないが、常に背景にある」
「収入が少なかったため」は上位3位には入らないものの、継続的に上位圏に位置する理由です。また、在職者への「悩み・不安・不満」を聞く設問では、「人手が足りない」「仕事内容のわりに賃金が低い」が例年上位に並びます。
つまり賃金は、それ単独で退職の引き金になるというより、他の不満が重なったときに「この待遇で続ける意味があるのか」と背中を押す要因として働きやすい、と整理できます。
3. 統計の背景にある4つの構造的な要因
離職理由の数字の裏側には、業界全体に共通する事情があります。個人の頑張りや我慢の問題ではない部分を、客観的に押さえておきましょう。
(1) 全産業平均との賃金差:単純比較では約8万円
厚生労働省「令和7年 賃金構造基本統計調査」をもとにした集計では、介護職員の賞与込み給与は月あたり約31.4万円。全産業平均は約39.6万円で、差は約8.2万円です(前年の差は約8.3万円)。
ただし、この比較にはいくつか留保が必要です。
- 年齢・勤続年数・役職構成・労働時間などを調整していない単純比較であり、差額がそのまま「同じ条件での待遇差」を意味するわけではありません。産業ごとに年齢構成や雇用形態の比率は大きく異なります。
- 直近の伸び率で見ると、介護職員は約3.6%増、全産業平均は約2.6%増。この年に関しては介護のほうが伸び率が高く、差は微減しています。「格差が一方的に開き続けている」わけではありません。
処遇改善も進んでいます。2024年度の介護報酬改定で、従来の3つの加算(処遇改善加算・特定処遇改善加算・ベースアップ等支援加算)が「介護職員等処遇改善加算」に統合され、2024年度末で経過措置が終了し、2025年4月以降は新加算区分に一本化されました。とはいえ全産業でも賃上げが進んでいるため、水準差の縮小には時間がかかっているのが現状です。
(2) 身体的負担と労働災害
社会福祉施設における労働災害は増加傾向にあり、事故の型で見ると「動作の反動・無理な動作」(腰痛など)と「転倒」が大きな割合を占めます(厚生労働省「令和6年の労働災害発生状況」)。移乗介助や入浴介助など身体に負荷のかかる動作が日常的に発生する職種であるため、厚生労働省も福祉・医療分野向けに腰痛予防・転倒予防の対策指針を示しています。
ノーリフティングケア(持ち上げない介護)の導入や、介護ロボット・スライディングシートの活用状況は事業所ごとに差が大きく、同じ介護職でも身体への負担は職場によってかなり違います。求人を見る際のチェックポイントにもなります。
(3) 利用者・家族からのハラスメント
厚生労働省の委託調査「介護現場におけるハラスメントに関する調査研究報告書」(令和3年度調査)では、利用者から何らかのハラスメント(身体的暴力・精神的暴力・セクシュアルハラスメント)を受けた経験のある職員の割合が、サービス種別によっておおむね4〜7割と報告されています。利用者家族からのハラスメント経験は1〜3割程度とされます。数年前の調査時点の数値であり、現在値ではない点にご留意ください。
現在は厚生労働省が「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」を公表し、組織として対応する体制づくりが推奨されています。個人で抱え込む問題ではなく、事業所が組織的に対応すべき事項として位置づけられている点は知っておく価値があります。
(4) 経営環境の厳しさ
東京商工リサーチの集計では、2025年の介護事業者の倒産は176件と過去最多を更新しました。内訳では訪問介護が91件と最も多くなっています。
これは「訪問介護という働き方が危ない」という話ではありません。背景として指摘されているのは、利用者宅を個別に訪問する事業形態は移動時間のコストがかかり、事業者の多くが小規模で、人手不足・物価高・燃料費や報酬改定の影響を吸収する体力を持ちにくいという事業構造上の事情です。訪問介護は在宅生活を支える不可欠なサービスであり、専門性と誇りを持って働く方が数多くいます。ここで見るべきは働き手の問題ではなく、事業構造と制度環境の問題です。
なお、経営に余裕のない事業所では教育・研修や休暇取得にしわ寄せが及びやすいという指摘もあります(統計として確定した因果関係ではなく、業界内で語られる傾向として捉えてください)。「自分の努力不足で回らない」のではなく、体制上の制約が背景にある可能性もある、という視点は持っておいてよいでしょう。
4. 知っておきたい業界用語(転職検討者向け)
記事や求人票でよく出てくる用語を簡単に整理します。
- 介護職員等処遇改善加算:介護職員の賃上げに使うことを条件に、事業所の介護報酬に上乗せされる仕組み。区分(Ⅰ〜Ⅳ)によって加算率が異なり、上位区分ほど職場環境要件や研修体制の要件が厳しくなります。求人を比較する際、どの区分を取得しているかは職場の体制を知る一つの手がかりになります。
- 介護老人福祉施設(特養):常時介護が必要で在宅生活が困難な方が入所する、公的性格の強い施設。
- 特定施設入居者生活介護:介護付き有料老人ホームなど、都道府県の指定を受けて介護サービスを提供する施設のこと。
- サービス提供責任者(サ責):訪問介護事業所で、訪問計画の作成やヘルパーの管理を担う役職。
- ユニットケア:少人数(10人程度)を1単位として、なじみの関係の中でケアを行う方式。人員配置や働き方が従来型と異なります。
- ノーリフティングケア:人力で持ち上げない介護。福祉用具を活用し、腰痛予防と利用者の安全を両立させる考え方。
5. 「辞めたい」を整理する3つの問い
ここまでの統計を踏まえると、辞めたい気持ちを次の3点に分解すると考えやすくなります。
問い1:不満の原因は「職種」か「職場」か
統計上、介護職を続けている人の転職理由の上位は人間関係と運営方針、つまり職場固有の要因でした。もし不満の中心が「特定の上司」「シフトの組み方」「理念と現場のズレ」であれば、介護という仕事を離れなくても解決する可能性があります。
一方、「身体的に続けるのが難しい」「利用者と向き合うこと自体が消耗する」と感じている場合は、同じ介護職の中でサービス種別や役割を変える(施設と在宅を入れ替える、身体介護中心からデイサービスや相談職へ など)ことも選択肢になります。
問い2:改善を求められる余地は残っているか
ハラスメント対応、腰痛対策、人員配置は、いずれも事業所が組織として取り組むべき領域として制度的な裏づけがあります。事業所内の相談窓口や上位者、法人本部、自治体の指定権者、労働基準監督署など、社内外に相談経路があることは知っておいて損はありません。
問い3:自分の市場価値と相場を把握しているか
介護福祉士、実務者研修、ケアマネジャー(介護支援専門員)などの資格、認知症ケアや看取りの経験は、他の事業所でも評価されるものです。辞める・辞めないを決める前に、今の待遇が地域相場と比べてどうなのかを知るだけでも、判断の精度は上がります。
6. 選択肢を知っておくという考え方
転職を決めていない段階でも、情報を集めること自体に意味があります。「今より条件の良い職場があるのか」が分かって初めて、残るという選択も納得のいくものになるからです。
介護職の方が使いやすい情報源としては、おおむね次のようなジャンルがあります。特定の1社に絞るより、性格の違うものを2〜3種類併用して比較するのが現実的です。
- 介護・福祉分野に特化した転職エージェント:サービス種別ごとの職場事情や、夜勤回数・人員配置といった求人票に出にくい情報を把握していることが多いジャンルです。
- 総合型の大手転職サイト・エージェント:求人数が多く、介護以外の選択肢(医療事務、福祉用具、生活相談員、人材コーディネーターなど)も視野に入れたいときに向きます。
- ハローワーク・都道府県の福祉人材センター:地域密着の求人が多く、公的機関のため無料で相談できます。福祉人材センターは介護分野に特化した公的窓口です。
- 口コミ・給与相場サイト:数字の裏取りに使えますが、投稿は個人の主観であり件数も限られるため、参考情報として扱うのが安全です。
比較するときの観点としては、離職率・平均勤続年数、夜勤回数と手当、処遇改善加算の区分、人員配置基準に対する実配置、教育体制、福祉用具や介護ロボットの導入状況あたりを見ておくと、この記事で挙げた離職要因と照らし合わせやすくなります。面接で直接確認しづらい項目は、エージェントを介して事前に聞いてもらう方法もあります。
7. まとめ
- 介護分野の離職率は2職種計で12.4%(令和6年度・介護労働実態調査)、うち介護職員12.8%、訪問介護員11.4%。2職種計は2年連続の低下。
- 雇用動向調査の全産業14.2%と並べる比較はよく見かけるが、一般労働者11.5%・パート21.4%という内訳があり、調査の定義も異なるため、単純に「介護は平均より低い」とは言い切れない。
- 「人が足りない」実感が続くのは、採用の伸び悩みと人材不足感(介護職員69.1%、訪問介護員83.4%)が背景にある。
- 辞める理由の上位は「職場の人間関係」(約34%)と「理念・運営方針への不満」(約26%)。ただし調査対象は介護職を続けている人であり、業界を離れた人の理由は含まれていない。
- 賃金は全産業平均と単純比較で月約8.2万円の差。ただし年齢・勤続等は未調整で、直近の伸び率は介護のほうが高い。
- 身体的負担、ハラスメント、事業所の経営環境なども、個人では変えにくい構造的要因として存在する。
辞めたいという気持ちは、状況を良くするためのサインでもあります。数字を手がかりに、「変えられるのは職場か、働き方か、それとも職種か」を切り分けてみてください。
この記事の主な出典(一次資料)
- 公益財団法人介護労働安定センター「令和6年度 介護労働実態調査結果について」(2025年7月公表)
https://www.kaigo-center.or.jp/report/jittai/r06_chousa_01.html
- 同「令和6年度 介護労働実態調査 資料提供(PDF)」
https://www.kaigo-center.or.jp/content/files/report/R6_jittai_chousa_press.pdf
- 同「令和6年度 介護労働実態調査 事業所調査 結果報告書(PDF)」
https://www.kaigo-center.or.jp/content/files/report/R6_jittai_chousa_jigyousyo_honpen1.pdf
- 厚生労働省「令和6年 雇用動向調査結果の概要」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/25-2/index.html
- 厚生労働省「賃金構造基本統計調査による介護職員の賃金について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_72236.html
- 厚生労働省「令和6年の労働災害発生状況」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_58198.html
- 厚生労働省「転倒予防・腰痛予防の取組」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000111055.html
- 厚生労働省「介護現場におけるハラスメントに関する調査研究報告書」(令和3年度調査)
https://www.mhlw.go.jp/content/12305000/000947359.pdf
- 東京商工リサーチ「2025年『介護事業者』倒産 過去最多の176件」
https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1202283_1527.html
- 東京商工リサーチ「2025年『介護事業者』の休廃業・解散653件」
https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1202326_1527.html
- 厚生労働省「介護人材確保の現状について(PDF)」
https://www.mhlw.go.jp/content/12000000/001485589.pdf
本記事の位置づけについて
この記事で紹介した統計は、あくまで全体の傾向を示すものです。介護の仕事にやりがいを持って長く働いている方も数多くいらっしゃり、「介護職の人はみんな辞めたがっている」ということではありません。職場環境、サービス種別、地域、個人の適性によって感じ方は大きく異なります。また、出典ごとに調査年度・対象・手法が異なるため、数値同士の比較には限界があります。数字は自分の状況を客観視するための道具として使い、最終的な判断はご自身の実感と状況に照らして行ってください。