「フロントエンドエンジニアは辞める人が多い」——そんな言葉を、転職関連の記事やSNSで見かけたことがある人は少なくないと思います。

ただ、そうした言葉の多くは個人の体験談であり、業界全体の実態を表しているとは限りません。この記事では、厚生労働省の公的統計を軸に、民間調査を補助的に使いながら、「フロントエンドエンジニアという職種で、実際にどのくらいの人が職場を離れているのか」「離れる人は何を理由に挙げているのか」を、できるだけ事実ベースで整理します。

なお、この記事には転職サービスに関する紹介や、アフィリエイトリンクを含む場合があります。内容は特定のサービスを推奨するものではなく、選択肢を比較するための情報としてお読みください。

前提:フロントエンドエンジニアとは何をする人か

まず、用語を簡単に整理しておきます。フロントエンドエンジニアは、Webサイトやアプリのうち、ユーザーが直接目にして操作する部分(画面側)を実装する職種です。HTML/CSS/JavaScriptを土台に、React・Vue.js・Angularといったフレームワーク(よく使う仕組みをまとめた開発の土台)や、TypeScript(JavaScriptに型の仕組みを足した言語)を使って開発するのが一般的です。

記事中に出てくる用語も、先に触れておきます。

用語ざっくりした意味
UI/UXUIは画面の見た目・操作部分、UXは使ったときの体験全体
SPAページ全体を読み込み直さずに画面を切り替える作りのWebアプリ
技術的負債急いで作った結果、後から直しにくくなっているコードや設計
デザインシステムボタンや配色などのルールと部品を組織全体で共通化した仕組み
SESエンジニアが自社に所属しながら、他社の開発現場に入って業務にあたる契約形態
レガシー古い技術や古い作りのまま残っているシステム

この「見た目に近い領域」という性質が、後で触れる離職理由のいくつかに深く関わってきます。

統計で見る:フロントエンドの離職は本当に「多い」のか

まず押さえたい、統計の限界

最初に正直にお伝えしておくと、「フロントエンドエンジニア」という職種単位の離職率を集計した公的統計は存在しません

そのため、この記事では近いカテゴリである「情報通信業」のデータを手がかりにします。ただしここには注意点があります。フロントエンドエンジニアが多く在籍するのはSIer・受託開発・Web系企業などの情報通信業ですが、小売・金融・メーカーなどの事業会社に所属する社内エンジニアは、勤務先の産業(小売業・金融業など)に計上されるため、情報通信業の数字には含まれません。

つまり、以下で示す数字は「この職種の実態そのもの」ではなく、傾向をつかむための目安です。そのうえで読み進めてください。

情報通信業の離職率は、全産業平均を下回る水準(令和6年)

参考になるのは、厚生労働省の「雇用動向調査」です。これは事業所と労働者を対象に、入職・離職の状況を毎年調べている国の基幹統計です。

令和6年(2024年)調査の産業別集計では、情報通信業の離職率は12.4%、入職率は10.2%と報告されています。同じ令和6年の全産業の離職率は14.2%(入職率14.8%)で、いずれも前年から低下しました。

同一年次で並べると、

  • 全産業:離職率 14.2%
  • 情報通信業:離職率 12.4%

となり、情報通信業は全産業平均を下回る産業に位置づけられます。

なお、産業間で離職率を単純比較するのはあまり有効ではありません。離職率はパート・アルバイト比率や雇用期間の定めの有無といった雇用形態の構成に強く影響されるため、たとえば非正規比率の高い産業と情報通信業を並べても、働きやすさの優劣を読み取ることはできません。

少なくとも言えるのは、「IT業界だから離職率が突出して高い」という見方は、統計上は支持されにくいということです。

令和6年は、離職率が入職率を上回った

令和6年調査では、情報通信業は離職率(12.4%)が入職率(10.2%)を上回りました。これは単年のデータであり、これを長期トレンドとして扱うことはできませんが、人の出入りが比較的活発な産業であること、「同じ会社に長くとどまるより、移りながらキャリアを作る人が一定数いる業界」という特徴は読み取れます。

また、人材サービス事業者であるレバテックの調査(同社の自社調査)では、正社員ITエンジニアのうち20代の転職活動が活発であることが報告されています。若年層ほど「一社に長く」ではなく「数年単位で環境を選び直す」動きが可視化されやすい、という点は押さえておくとよいでしょう。

「辞めた人の理由」は、全産業共通の要因が上位に来る

同じ雇用動向調査では、転職入職者が前職を辞めた理由も集計されています。全産業を通じて「給料等収入が少なかった」「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」「職場の人間関係が好ましくなかった」が上位に並ぶ構図は、ここ数年大きく変わっていません。

ここから先は民間調査を参照しますが、性質の違いに注意してください。以下で挙げるものは、いずれも転職支援事業を行う企業の自社調査で、Webアンケート形式・回答者数が限られたものです。国の基幹統計とは根拠としての強さが異なるため、「傾向を補足する材料」として読んでいただくのが適切です。

  • doda(パーソルキャリア)の転職理由ランキング【2025年版】:1位は「給与が低い・昇給が見込めない」で36.6%。5年連続の1位とされています。2位には労働時間に関する不満が入っています(2025年8月実施のWebアンケート、有効回答978名)。なお、割合は調査年によって変動するため、比較する際は同一年版で揃えて見る必要があります。
  • レバレジーズのITエンジニア転職意識調査(2022年9月実施、回答者300名):エンジニアが転職を決めた理由の1位は「収入アップのため」(42.4%)、2位「会社や業界の将来性」(22.4%)、3位「キャリアアップ」(16.5%)でした。

エンジニア職は「スキルアップやキャリア形成が動機になりやすい職種」と語られがちですが、この調査を見ると実際は収入が最上位にあり、そこに将来性やキャリアといった要因が続く構図です。公的統計の傾向と大きくは違いません。

ここから見えるのは、フロントエンドエンジニアの離職も、「この職種だけの特殊な事情」よりは、全職種共通の要因(収入・労働時間・人間関係)に、職種特有のストレス要因が上乗せされている構図だということです。以下では、その「上乗せ部分」を整理します。

フロントエンドエンジニアが挙げやすい離職理由7つ

ここから挙げるのは、各種の職種紹介記事・体験談記事・エンジニア向け調査に繰り返し登場する傾向をまとめたものです。統計上の順位ではなく、「語られやすいテーマ」の整理として読んでください。

1. 技術の移り変わりが速く、学び直しが終わらない

最も頻繁に語られるのがこれです。フロントエンドは、フレームワークやビルドツール、状態管理の考え方などが数年単位で大きく動く領域です。世界規模の開発者調査であるState of JSでも、TypeScriptの利用が短期間で広がり高い水準で定着したことや、主要ツールの勢力図が版を重ねるごとに入れ替わってきたことが示されています。「数年前のベストプラクティスが現在の標準ではない」という状況が起きやすい分野です。

これを「常に新しいことを学べる面白さ」と受け取る人もいれば、「業務時間外の学習が事実上の前提になっていてしんどい」と感じる人もいます。後者の感じ方が強くなったとき、離職を意識するきっかけになりやすいようです。

2. 業務範囲が広がりやすく、どこまでが自分の仕事か曖昧になる

フロントエンドは、デザイン・バックエンド・企画のすべてと接する位置にあります。そのため、

  • デザイナーから受け取った意図をコードに落とし込む
  • バックエンドのAPI仕様に合わせて画面側を調整する
  • アクセシビリティや表示速度の改善を担当する
  • ときにはサーバーサイドやインフラ寄りの作業も引き受ける

といった形で、役割が広がっていきやすい構造があります。「フロントエンド」という肩書きで入ったのに、実態は何でも屋になっていた、という話は体験談記事でもよく見られます。

3. 仕様変更や差し戻しの影響を受けやすい

画面はユーザーの目に見える部分なので、関係者全員が意見を言いやすい領域でもあります。結果として、リリース直前のデザイン変更や文言修正、細かな見た目の調整が積み重なりやすい。こうした「終盤の揺れ」が労働時間に直結する場合、雇用動向調査で上位に来る「労働時間、休日等の労働条件」への不満につながります。

4. 技術的な難しさが評価に反映されにくいと感じやすい

「見た目を作る仕事」という理解が組織内に広がっていると、パフォーマンス最適化や設計改善、アクセシビリティ対応といった外から見えにくい仕事が評価されにくくなることがあります。難しいことをやっているのに軽く見られている、という感覚は、収入や昇進への不満と結びつきやすい部分です。

これは職種そのものの問題というより、組織の評価制度や、フロントエンドに対する社内の理解度の問題であることが多く、会社が変われば体感が大きく変わりやすい領域でもあります。

5. 技術的負債とレガシー環境の維持に時間を取られる

新しい技術を扱えると思って入ったのに、実際は古い作りのシステムの維持が業務の大半だった——というギャップも、よく語られるテーマです。特に長く運用されているサービスでは、修正のたびに影響範囲を調べる作業が膨らみ、「作っている実感が持てない」状態になりやすいと言われます。

6. 契約形態や体制によって、裁量の大きさが変わる

これは他の項目と違い、職種別に集計された統計データが見つからないテーマです。そのため、あくまで「そう語られることがある」という範囲の話として書きます。

SESのように他社の開発現場で業務にあたる形態や、複数の会社が関わる開発体制では、技術選定や設計に関わる範囲が契約で定まっており、担当がプロジェクトごとに決まっているケースがあります。これを「役割がはっきりしていて働きやすい」「多様な現場を経験できる」と評価する人もいますし、実際にそうした環境で高い専門性を積み上げているエンジニアも数多くいます。一方で、設計から関わりたい志向の人にとっては、現在の案件の裁量の範囲がキャリアを考えるきっかけになることがあります。

いずれにしても、これは契約形態そのものの良し悪しではなく、案件・企業・本人の志向の組み合わせの問題です。「この働き方だから駄目」という話ではまったくありません。

7. 生成AIの普及で「自分の価値」を問い直す人が増えている

近年になって急速に増えたテーマです。LAPRAS HR TECH LABのエンジニア向け調査では、AIツールの利用が「一部の先進層が試す段階」から「日常的に使う前提」へ移行しつつあることが報告されています。また、レバテックが採用担当者を対象に行った調査では、生成AIの登場により約4割が「エンジニアに求めるスキルが変化した」と回答しています(いずれも人材サービス事業者の自社調査。調査時期・対象・回答者数は末尾の出典リンク先をご確認ください)。

UIの実装やコード生成の一部をAIが担うようになったことで、「自分は今後どこで価値を出すのか」を考え直す人が増えました。これは必ずしもネガティブな動きではなく、設計・アーキテクチャ・プロダクト理解といった上流方向へ役割を広げる転職につながっているケースもあります。

「辞めたい」の正体を切り分けるための3つの問い

ここまで見てきたように、離職理由には職種そのものに由来するものと、いまの職場環境に由来するものが混ざっています。この切り分けができていないと、転職しても同じ不満を繰り返すことがあります。次の3つを紙に書き出してみるのがおすすめです。

問い1:不満は「フロントエンドという仕事」に向いているか、「今の環境」に向いているか

コードを書くこと自体は好きだが評価制度に納得がいかない、というなら環境要因の比重が大きい可能性があります。逆に、画面を作る作業そのものに関心が持てなくなっているなら、職種の見直しが選択肢に入ります。

問い2:同じ職種の他社でも、その不満は起きうるか

学習の継続は職種に付いて回りますが、仕様変更の多さ、評価のされ方、レガシーの量、裁量の大きさは、会社や事業フェーズによって大きく変わります。

問い3:1年後、同じ状態が続いていたら耐えられるか

これは待遇や労働時間の問題を先送りしないための問いです。体調に影響が出ている場合は、判断を急ぎすぎず、産業医や公的な相談窓口を先に頼る選択もあります。

続けるか、動くかを判断するための材料の集め方

「辞める・辞めない」を決める前に、判断材料を増やしておくと後悔が減ります。実際に転職するかどうかは別として、次のような情報は早い段階で集めておいて損がありません。

1. 自分の市場価値の目安を知る

フロントエンドの求人は、企業規模や事業内容によって提示条件の幅が大きい職種です。求人票の条件レンジや、フリーランス案件の単価水準を見ておくだけでも、いまの待遇が相場のどこにあるかが見えてきます。

2. 職務経歴を「成果」の言葉で書き出しておく

「Reactが書ける」ではなく、「表示速度を◯%改善した」「コンポーネント設計を共通化して実装工数を削減した」といった形で棚卸ししておくと、評価されにくいと感じていた仕事が言語化できます。これは社内の評価面談でも使えます。

3. 複数タイプの転職サービスを見比べる

転職サービスにはいくつかのタイプがあり、それぞれ得意分野が異なります。どれか1つが正解というより、目的に応じて併用するのが一般的です。

  • IT・エンジニア特化型のエージェント:技術スタックや開発体制の内情に詳しく、フロントエンドの求人を条件で絞りやすい
  • 総合型の大手転職エージェント:求人数が多く、他職種(PdM、UXデザイナー、テックリードなど)への横移動も含めて相談しやすい
  • スカウト型・ダイレクトリクルーティング:登録しておくと、自分の経験がどんな企業から声をかけられるかが分かり、市場価値の把握に向く
  • フリーランス向けのエージェント:会社員以外の働き方の単価感を知る材料になる

いずれも登録=転職ではありません。「いまの職場にとどまる」という判断をするためにも、外の相場を知っておくことには意味があります。担当者との相性で体験が変わりやすいので、2〜3社を比較したうえで、自分の状況を説明しやすい相手を選ぶのが現実的です。

フロントエンドから先のキャリアの広がり

離職=この職種から離れる、とは限りません。フロントエンドで培った「ユーザーに近い視点」と「実装力」は、次のような方向に活かされています。

  • テックリード/フロントエンド専門職としての深化:設計・デザインシステム構築・パフォーマンス改善などの領域で専門性を高める
  • フルスタック方向:バックエンドやインフラも含めて担当範囲を広げる
  • プロダクトマネージャー/UXエンジニア:仕様や体験そのものを設計する側に回る
  • SRE・アクセシビリティ・Webパフォーマンス等の専門領域:横断的な品質を担う役割

「辞めたい」が「この職種が嫌い」ではなく「いまの役割に伸びしろを感じない」だった場合、職種を変えずに役割を変えるだけで解決することもあります。

まとめ

  • 「フロントエンドエンジニア」単位の離職率統計は存在せず、近いカテゴリの情報通信業から傾向を推測するしかない。事業会社の社内エンジニアは別産業に計上されるため、代表性には限界がある
  • 公的統計(厚生労働省「令和6年雇用動向調査」)では、情報通信業の離職率12.4%に対し全産業平均は14.2%。「IT=離職率が極端に高い」という見方は統計上は支持されにくい
  • ただし令和6年は離職率(12.4%)が入職率(10.2%)を上回っており、人の出入りが比較的活発な産業であることは読み取れる
  • 離職理由の上位は全産業共通(収入・労働時間・人間関係)。そこに、技術変化の速さ・業務範囲の広がり・評価のされにくさといったフロントエンド特有のテーマが上乗せされる構図
  • 生成AIの普及は、不安要因であると同時に、役割を上流へ広げるきっかけにもなっている
  • 不満が「職種由来」か「環境由来」かを切り分けることが、次の一歩を決める出発点になる

最後に大切なことをひとつ。ここで挙げた理由は、あくまで離職を選んだ人・つらさを言葉にした人の声が集まりやすいテーマを整理したものです。フロントエンドエンジニアとして長く働き、この仕事に手応えとやりがいを感じている人も数多くいます。同じ職場・同じ業務内容でも、感じ方は人によって大きく異なります。この記事の内容を「自分もそうであるはずだ」と当てはめるのではなく、自分の状況を点検するためのチェックリストとして使ってもらえたら嬉しいです。

参考・出典

公的統計(国の基幹統計)

※全産業の入職率・離職率、転職入職者が前職を辞めた理由

※情報通信業の入職率・離職率。産業別の数値は同PDFの産業別集計表を参照

民間調査(いずれも転職・人材サービス事業者による自社調査。Webアンケート形式で回答者数が限られるため、公的統計とは根拠の性質が異なります)

開発者コミュニティ調査