「派遣薬剤師は辞める人が多い」——求人サイトの口コミや職場の雑談で、そんな言い方を見聞きしたことがある方もいるかもしれません。一方で、派遣という働き方を選び、納得して長く続けている薬剤師の方も確実にいます。

この記事では、感情的な決めつけではなく、厚生労働省の統計や公的な需給推計をもとに、「派遣薬剤師の離職が多く"見える"のはなぜか」「実際にどんな事情で契約や職場を離れる人がいるのか」を整理します。そのうえで、いま働き続けるか、別の働き方を検討するかを考えるための判断材料を提示します。

※本記事には、転職・派遣サービス等のアフィリエイトリンクを含む場合があります。内容は編集部の判断で作成しており、特定の1社を推奨するものではありません。

まず前提:派遣は「辞める」の意味が正社員と違う

派遣薬剤師の離職を語るうえで、最初に押さえておきたい構造的な前提があります。

派遣は、原則として有期の労働契約です。3か月更新、6か月更新といった契約を積み重ねる形が一般的で、契約期間が満了すれば、そこで一つの就業が終わります。つまり、正社員の「退職」と同じ言葉で数えると、どうしても就業の切れ目の回数は多くなります。

さらに労働者派遣法には、いわゆる3年ルールがあります(労働者派遣法第35条の2・第35条の3、第40条の2)。同一の事業所への派遣可能期間(事業所単位)と、同一の組織単位で働ける期間(個人単位)にそれぞれ上限が設けられ、その上限を超える最初の日を「抵触日」と呼びます。個人単位の期間制限に達すると、本人が続けたいと思っていても、同じ職場・同じ部署で働き続けることはできません(無期雇用派遣や60歳以上など、期間制限の対象外となる場合を除く)。

この時点で、「派遣薬剤師は離職が多い」という印象の一部は、本人の不満ではなく制度上の区切りによって生まれていることが分かります。ここを分けて考えないと、実態を読み違えます。

用語のミニ解説

記事中に出てくる派遣特有の用語を、先に簡単に整理しておきます。

  • 抵触日:派遣期間の上限を超える最初の日。事業所単位と個人単位の2種類がある
  • 派遣元・派遣先:雇用契約を結ぶのが派遣元(派遣会社)、実際に指揮命令を受けて働くのが派遣先(薬局・ドラッグストア等)
  • 無期雇用派遣:派遣会社と期間の定めのない契約を結ぶ形態。期間制限の対象外になる
  • 労使協定方式:派遣社員の待遇決定方式の一つ。同種業務の一般労働者の賃金水準等をもとに賃金を決める仕組み
  • 紹介予定派遣:一定期間の派遣勤務を経て、双方合意のうえで直接雇用に切り替えることを前提とした派遣
  • 管理薬剤師:薬局や店舗の医薬品管理・従業員監督の責任を負う薬剤師。医薬品医療機器等法上、薬局開設者に雇用されていることが前提となるため、派遣という契約形態では原則として担えない

病院・診療所への派遣は原則禁止

もう一つ、薬剤師の派遣を考えるうえで欠かせない前提があります。病院・診療所など医療機関への薬剤師派遣は、労働者派遣法および同法施行令により原則として禁止されています(いわゆる「医療関連業務の派遣禁止」)。紹介予定派遣、産前産後・育児・介護休業の代替、へき地の医療機関などが例外として認められている形です。

したがって、派遣薬剤師が働く場は調剤薬局・ドラッグストア・企業などが中心となり、「病院での経験を積みたい」という希望は、派遣という形では基本的に実現しにくくなります。この点は、キャリアを考えるうえで最初に押さえておきたいところです。

統計で見る「離職の多さ」の輪郭

医療・福祉分野は人の出入りが比較的活発な分野

厚生労働省「令和6年雇用動向調査」によると、2024年の全産業の入職率は14.8%、離職率は14.2%でした(前年は入職率16.4%、離職率15.4%)。このうち医療・福祉分野は入職率18.3%、離職率16.9%で、いずれも全産業平均を上回っています。ただし離職率は前年の18.6%から低下しており、入職率が離職率を上回る「入職超過」の状態です。入職者数自体は3年連続で減少しているとの報道もあり、「離職だけが増え続けている分野」と読むのは正確ではありません。

また、就業形態別に見ると、パートタイム労働者の離職率は21.4%、入職率は22.7%と、一般労働者より明確に高くなっています。非正規・有期の働き方全般が、そもそも数字上の流動性が高いということです。派遣薬剤師の離職率だけを取り出して「特別に高い」と評価するのは、この点で公平ではありません。

「派遣を続けたい人」と「そうでない人」はほぼ拮抗している

厚生労働省「令和4年派遣労働者実態調査」(2022年10月1日現在)では、派遣労働者の今後の働き方の希望について、「派遣労働者として働きたい」が34.2%、「派遣労働者以外の就業形態で働きたい」が37.0%という結果が出ています。これは薬剤師に限らない派遣労働者全体の数字ですが、傾向を見る参考にはなります。

つまり、派遣で働く人の3人に1人は派遣という形を積極的に選んでいる一方で、同じくらいの割合の人が別の形を望んでいる、という構図です。「派遣で働く人は全員が不満を抱えている」わけでも、「みんな満足している」わけでもありません。

同調査では、派遣労働者が就業している事業所のうち、派遣労働者を正社員に採用する制度がある事業所は23.9%、過去1年間に実際に正社員として採用した事業所は3.8%とされています(全事業所ベースではそれぞれ14.3%、1.6%)。制度として用意している事業所は一定数あるものの、実際に転換に至る割合はそれより小さい、というのが数字の示すところです。

離職理由の全体傾向

「令和6年雇用動向調査」の転職入職者が前職を辞めた理由(個人的理由)では、例年と同様に「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」「給料等収入が少なかった」「職場の人間関係が好ましくなかった」「仕事の内容に興味を持てなかった」といった項目が上位を占めています。薬剤師を対象とした民間の転職理由調査でも、給与・待遇、人間関係、労働時間、キャリアアップ、ライフステージの変化がおおむね上位に並ぶ傾向が共通しています。

派遣薬剤師が職場や働き方を離れる主な理由

ここからは、公的統計の傾向と、編集部が確認した薬剤師向け転職・派遣サービスの公開コラム等に見られる記述を重ね合わせて、派遣薬剤師に関わる事情を6つに整理します。なお、事業者コラムは営業上の立場を含む情報であり、件数や調査方法が明示されていないものも多いため、あくまで「そうした指摘がある」という程度の扱いにとどめています。

1. 契約期間・抵触日という「自分では動かせない区切り」

前述の3年ルールに加え、そもそも派遣契約は更新を前提とした短期サイクルです。職場に慣れ、患者さんの顔も覚え、これからというタイミングで契約満了を迎えることがあります。

編集部が確認した派遣サービスのコラムでは、「人間関係も仕事も良かったのに終わってしまった」という種類の不本意さに言及するものが複数見られました。これは待遇への不満とは質が異なりますが、働き方そのものを見直すきっかけになりやすい要因といえます。

2. 時給は高めだが、年収の構造には別の論点がある

大手の薬剤師向け求人サービスが自社の求人データを集計して公開している例では、派遣薬剤師の平均時給を3,300円台とするものがあります(2025年公開・集計期間および母数は非公表)。これは特定1社の求人データにもとづく数値であり、業界全体の平均ではない点に注意が必要です。とはいえ、時給単価だけを見れば正社員の時給換算を上回るケースがあること自体は、複数のサービスが共通して指摘しています。

一方で、賞与・退職金が支給されない契約が多いこと、契約の空白期間が発生すると収入が途切れること、住宅手当等の各種手当が限定的であることから、年単位で均すと想定より伸びないという声が出やすくなります。「同一労働同一賃金」の考え方により待遇差の不合理な是正は進んでいますが、賞与・退職金の扱いは派遣元が採用する待遇決定方式(労使協定方式・派遣先均等均衡方式)によって異なり、実感としての差が残ることもあります。

3. キャリアの積み上げ方に制度上の制約がある

前述のとおり、管理薬剤師は薬局開設者に雇用されていることが前提であるため、派遣という契約形態では原則として担えません。これは本人の力量や評価の問題ではなく、制度設計上の制約です。同様に、病院薬剤師としての経験も、派遣では原則として積めません。

また、かかりつけ薬剤師としての継続的な関わりや在宅医療への本格的な参画も、契約期間や契約で定めた業務範囲の制約を受けやすい領域です。即戦力として調剤・監査・投薬を担う役割は得られても、「5年後のキャリアにつながる経験」の選択肢が限られる——この点が、働き方を見直す動機として語られることがあります。

4. 職場ごとの受け入れ体制のばらつき

これは業界全体の傾向として断定できるものではなく、あくまで職場によって差が大きい部分である点を先にお断りしておきます。

そのうえで構造的な背景を挙げると、派遣は「欠員補充」「繁忙期対応」という人手が不足している局面で要請されることが多く、受け入れ側に十分な余裕がない状態で就業が始まりやすい、という事情があります。レセコンや電子薬歴の操作方法、店舗独自のルール、地域の処方傾向は職場ごとに異なりますが、引き継ぎの時間を確保しにくいことも起こり得ます。

情報共有の輪に入りにくいと感じるかどうかも、職場の体制や規模によって大きく変わります。丁寧な受け入れ体制を整えている職場も当然多く、一律に語れる話ではありません。

5. 事前に聞いていた条件と実際の業務のギャップ

業務量、処方箋枚数、一人薬剤師の有無、在宅同行の頻度、残業の実態など、契約時の説明と現場の実情の間にずれを感じるケースは、派遣に限らず起こり得ます。ただし派遣の場合、条件交渉の窓口が派遣元であるため、現場で違和感を覚えても自分で直接調整しにくいという構造があります。

制度面では、派遣元には労働者派遣法にもとづく就業条件明示義務があり、苦情の申し出先として派遣元責任者・派遣先責任者が定められています。解決しない場合は、都道府県労働局の需給調整事業部門に相談する窓口もあります。ずれを感じた際に、まずどこへ伝えるかを知っておくことは、就業を続けるうえでも次を選ぶうえでも役に立ちます。派遣元担当者のフォロー体制が就業継続を左右しやすい、というのはこの意味です。

6. 市場環境の変化という外部要因

厚生労働省の検討会が2021年に公表した薬剤師需給推計では、2045年時点の薬剤師数について、需要側のシナリオ(薬剤師業務の充実度の想定)の違いにより、最小で約2.4万人、最大で約12.6万人の供給過剰となる可能性が示されています。幅が大きいのは、薬局薬剤師に求められる業務がどこまで拡充されるかによって必要人数が変わるためです。あくまで5年前の推計であり、確定した将来像ではありません。同時に、病院薬剤師の不足や地域偏在といった「足りない場所は足りない」という状況も併存しています。

加えて、2026年度の調剤報酬改定では調剤ベースアップ評価料が新設され、賃上げ・物価対応への評価が調剤分野にも導入されました(医科・歯科では2024年度にベースアップ評価料が先行して導入されています)。あわせて管理料の見直しや在宅医療の評価強化など、薬局に求められる機能の再定義も進んでいます。こうした変化は、採用の考え方や派遣求人の条件・地域差にも影響し得ます。いま働き方を点検しておく意味は、ここにもあります。

一方で、派遣を選び続ける人がいるのも事実

離職理由を並べてきましたが、派遣という働き方に積極的な価値を見出している薬剤師の方も多くいます。

  • 育児・介護・学業などと両立しやすく、勤務日数や時間を自分で設計しやすい
  • 転勤や異動、店舗運営の責任から距離を置ける
  • 短期間で複数の職場を経験でき、調剤の幅や対応力が広がる
  • 契約と契約の間にまとまった休みを取りやすい

先ほどの派遣労働者実態調査で「派遣労働者として働きたい」が34.2%を占めていたのは、こうした実感の裏付けと考えられます。同じ働き方でも、感じ方は人によって大きく異なります。「離職理由が挙がる=良くない働き方」ではなく、「自分の優先順位と噛み合っているか」が判断の軸です。

続けるか、動くか。判断のための5つの観点

いま迷っている方は、次の観点で自分の状況を書き出してみると、論点が整理しやすくなります。

  • 不満の出どころは「派遣という形」か「今の職場」か

職場固有の問題なら、次の契約先を変えるだけで解消することがあります。形そのものへの不満なら、雇用形態の変更を検討する余地があります。

  • 収入は「時給」ではなく「年収と生涯収入」で見えているか

賞与・退職金・社会保険・空白期間を含めて年間ベースで試算すると、比較の精度が上がります。

  • 3年後・5年後にどんな経験が必要か

管理薬剤師や病院勤務は派遣では原則として経験できないため、それらが必要なら雇用形態の変更が前提になります。在宅や専門認定については、現在の契約範囲で積めるかを確認しましょう。

  • 今の生活条件は、いつまで続く前提か

育児や介護など、派遣を選んだ理由が変わりつつあるなら、働き方も同時に見直すタイミングです。

  • 派遣元のフォロー体制に納得しているか

条件交渉、就業中のトラブル対応、次の案件の提案力は派遣会社によって差があります。

選択肢を知るという意味での、情報収集の仕方

すぐに辞める・辞めないを決める必要はありません。ただ、選択肢を把握しておくこと自体にはコストがかからないので、情報の整理だけ先に済ませておくのは現実的な進め方です。薬剤師の場合、相談先はおおむね次のジャンルに分かれます。

  • 薬剤師特化型の転職エージェント:調剤薬局・病院・企業など職域別の求人動向や年収レンジに詳しく、キャリア相談に向く
  • 薬剤師派遣に強い派遣会社:派遣のまま条件を上げたい、案件の選択肢を増やしたい場合の比較対象になる
  • 紹介予定派遣を扱うサービス:派遣で職場を見てから直接雇用に移る道を探したい場合(病院勤務を視野に入れる場合も、派遣では紹介予定派遣が数少ない入口になります)
  • 総合型の転職サイト:製薬企業、CRO/CRA、行政・公的機関など、薬局以外の職域も視野に入れる場合
  • 地域特化型のエージェント・ハローワーク:Uターン・Iターンや地元の中小薬局を含めて探したい場合
  • 直接応募:気になる法人が決まっている場合の選択肢

複数のサービスに登録して提示条件を比べると、自分の市場価値や地域の相場観がつかめます。特定の1社だけを見て判断すると、比較軸が持てないまま結論を出すことになりがちです。逆に、登録数を増やしすぎると連絡対応の負担が大きくなるため、2〜3社程度から始めて、担当者との相性を見ながら絞るのが無理のない進め方です。

現時点で転職する気がなくても、「今の自分の条件は相場と比べてどうか」を知っておくと、次の契約更新の交渉材料になります。動くための情報収集と、留まる判断を裏付けるための情報収集は、同じ作業です。

まとめ

  • 派遣薬剤師の離職が多く「見える」背景には、有期契約と3年ルールという制度上の区切りが大きく影響している
  • 医療・福祉分野は入職率18.3%・離職率16.9%といずれも全産業平均を上回るが、2024年は入職超過で離職率も前年から低下している(令和6年雇用動向調査)
  • 派遣労働者全体(薬剤師に限らない・2022年10月時点)では「派遣を続けたい」34.2%、「他の形を望む」37.0%と意向はほぼ拮抗(令和4年派遣労働者実態調査)
  • 派遣に関わる要因は、契約の区切り・年収構造・制度上のキャリア制約(管理薬剤師や病院勤務は原則不可)・受け入れ体制のばらつき・条件のギャップ・市場環境の変化
  • 判断の軸は「派遣という形への不満か、今の職場への不満か」の切り分け

参考にした主なデータ・資料

  • 厚生労働省「令和6年 雇用動向調査結果の概要」

https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/25-2/index.html

  • 厚生労働省「令和4年 派遣労働者実態調査の概況」

https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/haken/22/index.html

  • 厚生労働省 薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会「薬剤師の需給推計」(2021年)

https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/000772130.pdf

  • 労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(労働者派遣法)・同法施行令(期間制限、就業条件明示義務、医療関連業務の派遣禁止)

https://laws.e-gov.go.jp/law/360AC0000000088

  • 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定について」(調剤報酬・ベースアップ評価料関連)

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411_00052.html

  • 薬剤師向け転職・派遣サービス各社が公開する時給・転職理由に関するコラム(集計主体・期間が明示されていないものを含むため、本文では傾向の参考としてのみ扱っています)