「保険営業は離職率が高い」——この言葉は、業界の内外を問わずよく耳にします。ただ、実際にどのくらいの人が辞めているのか、どんな理由で辞めているのかを、数字に当たって確認する機会は意外と多くありません。

この記事では、厚生労働省の雇用動向調査などの公的統計と、業界団体・報道機関が公表しているデータをもとに、保険営業という職種で離職が語られやすい背景を整理します。特定の会社を批判する意図はなく、あくまで職種・業界全体の一般的な傾向としてまとめています。

なお、この記事では後半で転職サービスのジャンルに触れる部分があり、一部にアフィリエイトリンクを含む場合があります(この開示は冒頭の一度のみとします)。

まず前提:「保険営業」と一口に言っても中身は幅広い

離職の話に入る前に、言葉の整理をしておきます。「保険営業」と呼ばれる働き方には、少なくとも次のような種類があります。

  • 生命保険会社の営業職員(保険会社に雇用される営業職。かつて「生保レディ」という通称で呼ばれた職種もここに含まれますが、現在は各社とも「営業職員」「ライフプランナー」などの呼称が一般的です)
  • 損害保険会社の営業社員(代理店を支援・管理する立場が中心で、直接個人に販売する形とは異なる)
  • 保険代理店の募集人(複数社の商品を扱う「乗合代理店」や、来店型ショップの担当者など)
  • 業務委託型・フルコミッション型の募集人(個人事業主として契約するケース)

雇用形態も報酬体系も日々の仕事内容も、この4つでかなり違います。「保険営業=きつい」と一括りにされがちですが、実際には所属する形態によって離職の起きやすさも理由も変わる、という点は最初に押さえておきたいところです。

統計で見る「離職率は本当に高いのか」

公的統計では、業界全体の離職率は産業平均を上回っていない

まず意外に思われるかもしれませんが、公的統計上の「金融業,保険業」という産業区分の離職率は、産業全体の平均を上回っていません。

厚生労働省の「雇用動向調査」(令和6年分は2025年8月26日公表)では、産業別に入職率・離職率が集計されています。近年の調査では、全産業計の離職率は15%前後で推移する一方、「金融業,保険業」は10%前後と、宿泊業・飲食サービス業などと比べて低い水準にとどまってきました。令和6年調査全体としても、入職率・離職率はともに前年から低下しています。

※離職率は調査年によって変動します。本記事では傾向を示す水準として記載しているため、最新年次の正確な数値は記事末尾の厚生労働省リンク(産業別の入職・離職状況の表)でご確認ください。

つまり、産業レベルの統計だけを見れば「保険業界は離職率が特別高い業界」とは言えません。この点は、体感とのギャップとして知っておく価値があります。

では、なぜ「離職率が高い」と言われるのか

ギャップの正体は、統計の「粒度」にあります。「金融業,保険業」という区分には、保険会社の内勤職、事務職、銀行・証券の従業員なども含まれます。これらを合算した数字は、営業職員だけを取り出した実態を映しません。

営業職員チャネルに絞ると、様相は変わります。日本経済新聞の報道によれば、日本生命など主要8社の2024年度の集計で、入社から5年目に在籍している人の割合は約25%で、新型コロナ前と比べて4ポイント上昇しています。裏を返せば、5年目時点で在籍していない人が4人に3人という水準です。

ここで一点、読み方の注意があります。在籍率の低下は、そのまま「離職率」ではありません。内勤職への転換、契約形態の変更、定年・家庭の事情による退職なども含まれるため、残りの75%全員が自発的に転職を選んだ、という意味ではない点は押さえておきたいところです。

また、ダイヤモンド・オンラインが営業職員チャネルを持つ生保各社に行った調査(2024年公表、2023年度時点のデータ)では、営業職員の在籍数が前年比で減少した社が多数にのぼることが報じられています。

一方、生命保険協会の統計では、登録営業職員数は2023年度に前年度比97.5%と減少したものの、2024年度は24万1,507名(前年度比100.3%)と2年ぶりに増加しました。長期的に見ればピーク時より少ない水準ですが、直近では下げ止まりの動きも出ており、「一貫した減少局面」と単純化はできません。年度によって採用方針の影響も大きいため、単年の増減だけで趨勢を判断しない姿勢が必要です。

「業界全体の離職率」と「営業職員という職種の定着率」は別の話——これが、数字を読むうえでいちばん大事なポイントです。

保険営業で語られやすい離職理由・7つ

ここからは、業界メディアの調査記事や経験者の体験談で繰り返し挙げられるテーマを、傾向として分類します。これらは「保険営業なら誰にでも当てはまる事実」ではなく、環境によって強く出る要素・ほとんど問題にならない要素が分かれるという前提でお読みください。

なお、前提として全産業の数字を挙げておくと、厚生労働省の雇用動向調査における転職入職者の「前職を辞めた理由」(個人的理由)では、例年「給料等収入が少なかった」「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」「職場の人間関係が好ましくなかった」が上位に並びます。これは全産業の転職入職者を対象とした数字で、保険営業に限定したものではありませんが、離職理由の大枠は業種を問わず共通する部分が大きいことが分かります。

1. 目標(ノルマ)の設定と、見込み客の確保

新規契約件数や保障額、活動件数といった目標が明確に設定される職種です。目標そのものより負担として語られやすいのが、見込み客をどう継続的に確保するかという点です。

経験者の体験談では、入社直後に身近な人間関係から契約が生まれて成績が出やすい時期があり、その層が一巡した後の開拓に切り替わるタイミングで壁を感じた、という声がしばしば語られます。ただしこれはあくまで語られやすいエピソードであり、営業スタイルは会社・支社・個人によって大きく異なります。また、前述の5年目在籍率のデータは「なぜ在籍していないのか」という理由を示すものではないため、在籍率と縁故中心の営業との因果関係が統計上確認されているわけではありません

2. 成果連動型の報酬と、収入の振れ幅

保険営業の給与は「固定給+歩合」あるいは完全歩合(フルコミッション)が基本です。成果が出れば一般的な営業職を上回る収入も狙える一方、月ごとの変動が大きいという特徴があります。

住宅ローンや教育費など固定支出が増えるライフステージで、収入の振れ幅そのものがストレスになり、安定した固定給の職種へ移るという選択は珍しくありません。前述のとおり、雇用動向調査でも「給料等収入が少なかった」は転職理由の上位に毎回入っています。

3. 早期解約時の「戻入(チャージバック)」

契約者が短期間で解約した場合、すでに支払われた手数料や歩合給の一部を会社に戻す仕組みが設けられている場合があります。業界では戻入(れいにゅう)やチャージバックと呼ばれます。制度の有無や条件は会社・代理店によって異なります。

自分の努力だけでは制御しきれない事情(顧客の転職・家計事情など)で収入が後から目減りすることがあり、これを精神的な負担として挙げる声が見られます。

4. 営業経費の自己負担と、「自爆営業」をめぐる制度変化

交通費、顧客への手土産、名刺・パンフレット類など、活動経費の一部を自己負担する運用がある職場もあります。

また、目標達成のために自分や家族名義で契約・購入をする、いわゆる「自爆営業」については、これを強いる行為が問題として指摘されてきました。これは保険業界に限った話ではなく、小売、運輸・郵便など業種横断の課題として議論されてきたテーマです。

制度面では動きがありました。厚生労働省は労働政策審議会の議論を経て、改正パワーハラスメント防止指針に、一定の要件(優越的な関係を背景とした言動/業務上必要かつ相当な範囲を超える/就業環境が害される)を満たす場合には自爆営業がパワーハラスメントに該当する旨を明記しています。この改正指針は2026年10月に施行予定です。「よくある慣行」ではなく、防止すべきハラスメントとして公的に位置づけられたという変化は、現職の人にとって知っておく意味のある情報です。

5. 人間関係と「仕事とプライベートの境目」

知人・親族が営業対象に含まれる段階があると、職場のストレスが私生活の人間関係にも及びやすい構造になり得ます。契約後のフォローや紹介依頼を通じて、オフの時間との切り分けが難しくなるという声も見られます。

一方で、裁量の大きさは働きやすさにもつながります。同じ「時間の自由度」が、人によっては最大の魅力にも、最大の負担にもなるのがこの職種の特徴です。

6. 育成・評価のスタイルとの相性

成果が数字で明確に出るため、評価は分かりやすい反面、プロセスより結果が前面に出やすい傾向があります。朝礼での成績共有や個人別の進捗管理が、モチベーションになる人と重荷になる人にはっきり分かれます。

7. コンプライアンス対応にかかる事務負荷

近年は業務プロセスの適正化が業界全体で進んでいます。意向確認、比較推奨理由の説明、記録の保存など、一件あたりの事務量は以前より増えたという声があります。顧客保護の観点では必要な変化ですが、「顧客と話す時間より書類の時間が増えた」という実感が離職検討のきっかけになることもあります。

知っておきたい業界用語

用語意味
募集人保険契約の勧誘・締結の媒介を行う有資格者。登録が必要
乗合代理店複数の保険会社の商品を取り扱う代理店
継続率(13ヶ月・25ヶ月)契約が一定期間後も継続している割合。営業品質の指標
戻入(チャージバック)早期解約時などに、支払済みの手数料・歩合を返還する仕組み
MDRT生保・金融サービスの営業職の国際的な組織。一定の成績基準を満たすと入会資格を得る
自爆営業目標達成のために自身や家族名義で契約・購入すること

今、このテーマが注目される背景

2025年に成立した改正保険業法が、2026年6月1日に施行されました(本記事公開時点で施行から約3か月)。主な柱は、一定規模以上の乗合代理店(特定大規模保険募集人)に対する体制整備義務の強化、保険会社から募集人への特別利益の提供に関する規制の整理、募集人の情報提供義務の明確化などで、金融庁の監督指針も併せて改正されています。手数料の多寡で推奨商品を決めない、といった「顧客本位の業務運営」が、より具体的なルールとして求められる方向です。

これは、営業スタイルが制度面から変化の途上にあることを意味します。量を追う手法が取りにくくなる一方、コンサルティング力で勝負したい人にとっては追い風になる可能性もあります。「辞めるか続けるか」を考えるうえで、自分の得意な型がどちらに近いかを見極めるタイミングとしては、悪くない時期だと言えます。

それでも続ける人が挙げる理由

離職理由を並べましたが、当然ながら長く続けている人も大勢います。挙げられることが多いのは次のような点です。

  • 成果が収入に直結し、年齢や社歴に縛られにくい
  • 活動時間を自分で組み立てられる裁量がある
  • 顧客の人生の節目に長期的に関わり、感謝される場面がある
  • 金融・税務・社会保障の知識が体系的に身につく

同じ職場・同じ制度でも、受け止め方は人によって大きく異なります。「辞めたい」と感じている自分がおかしいわけでも、続けている人が我慢しているわけでもありません。この記事の内容も「保険営業の人は皆こう思っている」という読み方ではなく、ご自身の状況と照らし合わせる材料としてお使いください。

辞める前に整理したい4つの視点

感情が高ぶっているときの判断は、後から見ると極端に振れていることがあります。動く前に、次の4点を書き出してみてください。

  • 負担の正体はどこにあるか — 職種そのものか、目標設定か、上司との関係か、報酬制度か。「上司」や「支社の方針」が原因なら、社内異動やチャネル変更で解決する可能性があります。
  • 数字の再現性はあるか — 直近の成績が既存の人脈中心なのか、新規開拓で作れているのか。後者なら、その力は他業界でも高く評価されます。
  • 収入の下限はいくら必要か — 固定給ベースでいくらあれば生活が回るか。これが分かると、選択肢の絞り込みが一気に楽になります。
  • 辞めた後に残るものは何か — 保有資格(FP、変額保険販売資格など)、顧客対応力、提案力、税務・社会保障の知識。棚卸ししてみると、想像より多く残っているケースがよくあります。

「続ける」も「動く」も、情報を揃えてから決める

転職活動を始めること自体は、辞めることとイコールではありません。求人を見て市場価値を確認したうえで「やはり今の環境で続ける」と決める人も多くいます。判断材料を増やす、という目的で情報収集するのが現実的です。

サービスを選ぶときは、特定の1社に絞らず、タイプ別に組み合わせて比較するのが一般的です。

  • 総合型の転職エージェント — 求人数が多く、業界をまたいだ選択肢を広く見たいときに向く
  • 金融・保険業界特化型エージェント — 業界内での横移動(代理店、内勤、企画部門など)を検討する場合に情報が深い
  • 営業職特化型エージェント — 商材を変えて営業を続けたい場合、成果の伝え方の助言が得られやすい
  • スカウト型の転職サイト — 職務経歴を登録して反応を見ることで、自分の市場価値を測る材料になる
  • ハイクラス向けサービス — 法人営業や管理職の実績がある場合の選択肢

比較する際は、担当者の業界理解度、求人の非公開比率、面談の進め方、退会のしやすさといった観点を見ておくと、後で「合わなかった」となりにくくなります。あくまで選択肢を知っておくための道具として使うのがおすすめです。

まとめ

  • 公的統計上、「金融業,保険業」全体の離職率は産業平均を上回っておらず、近年は10%前後で推移している
  • 一方、営業職員という職種に絞ると、日本生命など主要8社の2024年度集計で入社5年目の在籍率は約25%(コロナ前比4ポイント上昇)とされ、定着のハードルは高い。ただし在籍率の低下は離職だけを意味するものではない
  • 登録営業職員数は2024年度に2年ぶりの増加に転じており、単年の増減で趨勢を断定はできない
  • 語られやすい離職理由には、見込み客の確保、収入の変動、戻入、経費の自己負担、人間関係の消耗、評価スタイルとの相性、事務負荷の増加などがあるが、当てはまり方は環境によって大きく異なる
  • 「自爆営業」は、2026年10月施行予定の改正パワハラ防止指針で、要件を満たす場合はパワーハラスメントに該当する旨が明記された(保険業界に限らない業種横断の課題)
  • 2026年6月1日施行の改正保険業法により、営業のあり方は制度面からも変化の途上にある

出典・参考

※出典記事のタイトルは原文ママで記載しています。本記事は特定企業の評価・批判を意図するものではありません。

  • 厚生労働省「令和6年 雇用動向調査結果の概要」(2025年8月26日公表) https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/25-2/index.html
  • 労働政策研究・研修機構(JILPT)「入職率、離職率」 https://www.jil.go.jp/kokunai/blt/backnumber/2024/11/c_01.html
  • 生命保険協会「統計資料・生命保険の動向」 https://www.seiho.or.jp/data/statistics/ / 同「生命保険の動向 2025年版」(PDF) https://www.seiho.or.jp/data/statistics/trend/pdf/all_2025.pdf
  • 日本経済新聞「生保営業、脱大量離職へ待遇改善」 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB313G20R31C25A0000000/
  • 日本経済新聞「『自爆営業』はパワハラ、厚労省が明記へ 企業に防止促す」 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA2025W0Q4A121C2000000/
  • 労働新聞社「改正パワハラ指針関連の解説」 https://www.rodo.co.jp/column/223185/
  • 日本人材ニュース「パワハラ防止指針の改正(自爆営業の明記)」 https://jinzainews.net/26811809/
  • ダイヤモンド・オンライン「生保19社・営業職員の『実態』をランキングで斬る!」(2024年公表、2023年度時点のデータ) https://diamond.jp/articles/-/342964
  • 金融庁「令和7年改正保険業法に係る監督指針等の一部改正(案)の公表について」(2025年12月17日公表・意見募集段階の資料) https://www.fsa.go.jp/news/r7/hoken/20251217-2/20251217-2.html
  • のぞみ総合法律事務所「改正保険業法・監督指針改正の解説」 https://www.nozomisogo.gr.jp/newsletter/13621
  • BUSINESS LAWYERS「令和8年6月施行 保険業法改正の概要と実務対応」 https://www.businesslawyers.jp/articles/1472