「今月の数字が足りない」「先月達成したのに、また月初からゼロに戻る」——法人営業(BtoB営業)として働く人から、こうした声を聞くことは少なくありません。一方で、同じ仕事に大きなやりがいを感じ、長く続けている人も確かに存在します。

この記事は、「法人営業は辞める人が多い」と語られる背景を検証する記事です。厚生労働省の公的統計や民間の転職サービスの調査データを確認しながら、その語られ方がどこまで統計で裏づけられ、どこからが体験談ベースの話なのかを切り分けていきます。特定の企業や、この仕事に就く人を批判する意図はありません。あくまで職種・業界全体の一般的な傾向として、辞めたさの正体を言語化することが目的です。

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そもそも「法人営業」とは何を指すのか(用語整理)

法人営業は、個人ではなく企業・団体を顧客とする営業職の総称です。同じ「営業」でも、業務の質は担当領域によって大きく変わります。読み進める前に、この記事で使う言葉を整理しておきます。

  • BtoB営業:企業間取引(Business to Business)を担う営業。法人営業とほぼ同義で使われます。
  • 新規開拓営業:取引のない企業に新たにアプローチする営業。電話・問い合わせ対応・紹介などが起点になります。
  • ルート営業(既存営業):すでに取引のある顧客を定期訪問し、追加提案や関係維持を行う営業。
  • インサイドセールス:訪問せず電話・メール・オンライン商談で見込み客を育てる内勤型の営業。分業体制を敷く企業で置かれる役割です。
  • カスタマーサクセス:契約後の顧客に定着・活用を促し、継続利用を支える職種。サブスクリプション型サービスで重視されます。
  • 決裁者/稟議:購入を最終判断する人と、その承認を社内で回す手続き。法人取引では現場担当者が気に入っても、稟議が通らなければ受注になりません。
  • リードタイム:商談開始から受注までにかかる期間。商材によっては数か月〜1年以上になることもあります。
  • KPI/SFA:KPIは訪問数・商談数などの中間指標、SFAは営業活動を記録・管理するシステムです。

「法人営業がきつい」と語られるとき、その内容は新規開拓なのかルート営業なのか、商材が高額な設備なのか月額課金のサービスなのかで、まったく別の話になっている——この前提が、実態を読み解く出発点になります。

統計で見る:法人営業の離職は本当に多いのか

最初に、正直にお伝えしておきたいことがあります。「法人営業」という粒度で離職率を示した公的統計は、現時点では見当たりません。

厚生労働省の「雇用動向調査」は、産業別(卸売業・小売業、情報通信業、金融業・保険業など)の集計に加え、e-Statでは職業大分類別(「販売従事者」「専門的・技術的職業従事者」など)の入職・離職データも公表されています。ただし「販売従事者」には小売の販売職なども含まれ、法人営業だけを抜き出した数値ではありません。つまり、職業レベルの集計は存在するものの、「法人営業の離職率」と呼べるデータはない、というのが正確な状況です。

ネット上では「営業職の離職率は◯%」といった数字も流通していますが、なかには出典が確認できないものや、産業全体の数値を営業職の話として引用したと思われるものも見受けられます。民間調査を参照すること自体は有益ですが、調査対象や手法(たとえば自社サービスの利用者が母集団になっている、など)を確認したうえで読むと、数字の意味を取り違えにくくなります。この記事で後述する民間調査についても、同じ前提で扱ってください。

そのうえで、周辺の統計から言えることを整理します。

産業単位では、離職率に大きな差がある(大卒・3年以内)

厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況」(令和4年3月卒業者)によると、大学卒業者就職後3年以内の離職率は33.8%でした。同じく大卒3年以内の産業別で見ると、宿泊業・飲食サービス業が55.4%、小売業が40.4%と高く、製造業は21.2%にとどまっています。

いずれも「大卒・3年以内」という限定つきの数値であり、産業全体の離職率でも、特定業界で働く人の総合的な評価でもありません。ここから読み取れるのは、法人営業は多くの産業に存在する職種であるため、「どの業界の法人営業か」で定着のしやすさが変わりうるということです。

辞めた理由の上位は「収入」と「労働条件」

厚生労働省「令和6年 雇用動向調査」によると、転職入職者が前職を辞めた理由は、「その他の個人的理由」などを除くと、男性では「定年・契約期間の満了」(14.1%)に次いで「給料等収入が少なかった」(10.1%)が上位。女性では「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」(12.8%)が最も多く、次いで職場の人間関係に関する理由が挙がっています。

また、転職サービスdodaを運営するパーソルキャリアが公表した「転職理由ランキング【2025年版】」(調査対象期間:2024年7月〜2025年6月、同社サービス利用者が母集団)では、1位が「給与が低い・昇給が見込めない」で36.6%、5年連続の首位でした。給与面の不満が継続的に上位を占めている点は、法人営業に限らず転職市場全体に共通する傾向として押さえておきたいところです。

つまり、離職理由として統計上多く挙がるのは、「収入」「労働時間などの労働条件」「人間関係」という、働く人全体に共通するテーマです。法人営業に固有の事情というより、この3つがこの職種特有の形で現れる、という構造で理解するのが実態に近いと言えます。

統計の鮮度について:雇用動向調査は年に一度更新されます。本記事は令和6年調査の公表値に基づいています。最新年の結果が公表されている場合は、厚生労働省の雇用動向調査ページで最新値をご確認ください。

法人営業でよく挙がる「辞めたい理由」8つ

この章の根拠について:以下の8項目は、編集部が確認した体験談や当事者の声をもとに分類したものであり、統計調査によって出現頻度や割合が示されたものではありません。前章で見た公的統計とは性質の異なる情報です。また、ここで挙げる運用の多くは組織や業界によって差が大きく、職種全体の慣行ではありません。すべての人に当てはまるものではなく、当てはまる数の多さがそのまま辞めるべき理由になるわけでもありません。自分がどれに強く反応するかを確かめる材料として読んでください。

1. 数字がリセットされ続ける構造的なプレッシャー

月次・四半期・半期で目標が設定され、達成しても翌月にはゼロから始まる。この「終わりのなさ」は、法人営業の体験談でよく語られる負荷です。ただし目標の設定周期や運用の厳しさは会社・部署によって大きく異なり、プレッシャーを成長の燃料と感じる人もいます。

一方で、緊張状態が続いて睡眠や食欲に影響が出ていると感じる場合は、本人の性格の問題として片づけず、環境との相性を見直すきっかけと捉えることもできます。体調面の不安がある場合は、医師や産業医、社内外の相談窓口など専門家に相談することも選択肢の一つです。

2. 成果と報酬が見合わないと感じる

法人営業は1件の取引額が大きく、会社の売上に直結しやすい職種です。それだけに「自分が動かした金額」と「自分の給与」のギャップが見えやすく、収入面の不満につながりやすい構造があると言われます。前述のとおり、民間調査でも転職理由の1位は給与・昇給への不満であり、これは法人営業に限らず日本の転職市場全体の傾向です。

3. 受注が自分の努力だけで決まらない

法人取引では、担当者が乗り気でも稟議が通らない、予算が翌期に流れる、人事異動でキーパーソンが変わる——といった理由で商談が止まることがあります。個人の裁量で完結しにくく、リードタイムが長い。努力と結果の因果が見えにくいことは、やりがいを感じにくくする要因として語られます。

4. 顧客都合に左右されやすい時間の使い方

訪問時間は顧客の都合で決まり、移動や直行直帰、終業後の対応が発生することがあります。会食や休日のイベント対応の有無は、取引慣行や商材、企業の方針によって差が非常に大きい領域で、まったく発生しない環境も珍しくありません。

そのうえで、雇用動向調査で女性の離職理由の上位が「労働時間、休日等の労働条件」であることを踏まえると、時間の主導権を持ちにくい働き方は、生活設計(育児・介護・通院・学び直し)と衝突しやすい論点だと言えます。

5. 商談以外の「社内業務」が想像より多いと感じる

見積作成、契約書チェック、与信確認、納期調整、SFAへの入力、週次の進捗報告資料。顧客と向き合う時間よりも社内手続きの時間が長くなると、「自分は何の仕事をしているのか」という感覚が生まれる、という声が聞かれます。営業支援ツールの導入によって効率化が進む職場がある一方、報告業務の負担感が増したという声も編集部が確認した範囲では聞かれます。どちらに転ぶかは、ツールの運用設計次第という組織差の大きい論点です。

6. マネジメントスタイルや評価への納得感

目標の配分根拠が不明確、プロセスを見ずに結果だけを問われる、会議の場で個人の数字が共有される。こうした運用が合わないと感じるケースがあります。ただしこれは職種の性質ではなく組織ごとの運用の違いであり、同じ法人営業でも会社を変えると印象が大きく変わる領域です。

7. 扱う商材・市場への納得感が薄れる

「自分が良いと思えないものを勧めている」「市場が縮小していて、努力しても前年比が伸びない」。商材への信頼は、法人営業のモチベーションを支える土台になりやすい部分です。ここが揺らぐと、待遇や人間関係に問題がなくても続けにくくなることがあります。会社の将来性への不安は、雇用動向調査でも離職理由の選択肢として一定の割合が挙がっています。

8. 数年後のキャリアが描きにくい

プレイヤーとして成果を出しても、その先が「マネージャー」以外に見えない。専門性が社外に伝わる形で言語化されていない——という不安です。実際には後述のとおり選択肢は複数ありますが、社内にロールモデルがいないと視野に入りにくい、という構造的な事情があります。

9(番外). 「数字を背負うこと」への感じ方は変わりうる

「自分は数字を背負うのに向いていない」と感じることもあります。ただしこれは適性の固定的な結論というより、現時点の環境での負荷の感じ方として捉えたほうが実態に近い場合があります。目標の水準、支援体制、商材の売りやすさ、上司との関係が変われば、同じ「数字を持つ仕事」でも感じ方が変わったという声もあります。

一方で、法人営業が「続けてよかった」と語られる理由

離職理由だけを並べると偏るため、同じ職種の別の側面にも触れておきます。

法人営業は、経営課題に近い距離で意思決定者と話せる職種です。顧客の業界構造や収益モデルを理解する必要があり、結果として事業を読む力が身につきやすいという特徴があります。また、ヒアリング力、関係者の利害を調整する折衝力、提案を構造化して伝える力は、業界や職種をまたいで持ち運べる「ポータブルスキル」として転職市場でも評価されやすい要素です。

転職市場の需給についても、参考になる指標があります。dodaの「転職求人倍率レポート」では全体および職種分類別の求人倍率が毎月公表されており、営業系職種の倍率もそこで確認できます。ただし倍率は月次で変動し、景況感の影響も受けるため、本記事で特定の月の数値を一般論として固定するのは適切ではありません。検討時点の水準は最新のレポートで確認することをおすすめします。

つらさが語られやすい仕事であると同時に、身についた力が他所でも説明しやすい仕事でもある。この両面があるからこそ、「すぐ辞める/我慢し続ける」の二択にしないことが重要になります。

「何を変えれば解決するのか」を切り分ける

辞めたさを感じたとき、いちばん損をしやすいのは、変えるべき対象を間違えることです。会社の運用が原因なのに職種を捨てる、職種の性質が原因なのに同じ職種で転職する——どちらも同じ悩みを繰り返しやすくなります。目安として次のように整理してみてください。

悩みの中身変えると効きやすい対象
目標設定の根拠、評価、上司のマネジメント会社・部署(社内異動も選択肢)
商材への納得感、市場の伸び、価格競争業界・商材
新規開拓の架電量、飛び込みの負荷営業スタイル(既存営業・インサイドセールス等)
顧客都合の時間、移動、休日対応働き方(内勤型・オンライン商談中心の体制)
数字を背負うことへの負荷感が強い職種(営業企画・カスタマーサクセス・マーケティング等)

法人営業の経験を活かしやすい隣接職種としては、インサイドセールス、カスタマーサクセス、営業企画・セールスイネーブルメント(営業の型づくり)、マーケティング、事業開発、採用・人材領域などが挙げられます。いずれも顧客理解と提案経験が土台になるため、まったくの未経験分野へ移るより接続しやすい傾向があります。

同じ職種名でも、働き方の差は広がっている

法人営業の働き方は、ここ数年で変化してきたと言われます。オンライン商談の活用、インサイドセールスとフィールドセールスの分業、SFA/CRMによる活動の可視化、サブスクリプション型サービスにおけるカスタマーサクセスの設置。こうした体制を採る企業がある一方で、従来どおり訪問中心で回している企業も多く、導入状況は業界・企業規模によってかなりばらつきがあります

重要なのは、この結果として同じ「法人営業」という職種名でも、会社によって実際の業務内容の差が大きくなっているという点です。「法人営業が合わない」と感じていた人が、分業体制の整った環境では力を発揮できるケースもあります。逆に、人と直接会って関係を築く手応えを重視する人が、内勤中心の体制で物足りなさを感じることもあります。職種名ではなく、求人票に書かれた業務の設計(誰が何を担当するのか)を読む目が必要になってきている、という段階です。

続けるか、動くかを判断するための材料

辞めたい気持ちが強い時期の判断は、どうしても揺れます。感情を否定する必要はありませんが、判断材料は事実ベースで揃えておくと納得感が増します。

1. 3〜4週間、事実だけを記録する

実労働時間、休日対応の回数、何にストレスを感じた瞬間かをメモします。「つらい」という感覚を、時間と回数に翻訳する作業です。記録が残ると、上司への相談でも転職面談でも説明が具体的になります。

2. 社内で変えられる範囲を確認する

担当顧客の変更、エリアやチームの異動、インサイドセールスや企画部門への社内公募。辞める以外の選択肢を先に確認しておくと、転職を選ぶ場合の判断も固まります。

3. 相場を知っておく

厚生労働省「令和6年 雇用動向調査」では、転職入職者の賃金が前職と比べて「増加」した割合が40.5%、「減少」が29.4%でした(こちらも最新年の結果が出ている場合は差し替えてご確認ください)。転職は収入が上がる人も下がる人もいる、というのが統計的な実態です。自分の経験がどう評価されるかは、求人情報や職務経歴の棚卸しを通じて確認しておくと安心です。

4. 動かないという選択も、選択として扱う

情報を集めた結果、今は残ると決めるのも立派な意思決定です。重要なのは「選べる状態で残る」ことで、これは「辞められないから残る」とは心理的にまったく違います。

5. 体調面の不調が続く場合は、先に相談先を確保する

眠れない、食欲がない、休日も回復しないといった状態が続く場合は、キャリアの判断より先に、医師や産業医、自治体・労働局の相談窓口などに相談することも検討してください。

情報を集める手段としての転職サービスの使い分け

転職サービスは、応募するためだけの道具ではなく、自分の経験が市場でどう扱われるかを知るための情報源としても使えます。ジャンルごとの特徴を押さえて、必要な分だけ使うのが現実的です。

  • 総合型の転職エージェント:求人数が多く、業界横断で相場観をつかみやすい。まず自分の市場価値の目安を知りたい段階に向きます。
  • 営業職・BtoB領域に特化したエージェント:営業スタイル(新規/既存/インサイドセールス)や商材、目標設定の運用まで踏み込んで情報を持っていることが多く、「同じ営業でも環境を変えたい」場合に相性が良い傾向があります。
  • 業界特化型エージェント(IT、メーカー、建設、医療機器など):商材や業界構造への納得感を重視する場合に有効です。
  • 転職サイト(求人検索型):自分のペースで求人を見たいとき、担当者とのやり取りを挟まずに情報だけ集めたいときに向きます。
  • スカウト型サービス:登録しておくと、どんな業界から声がかかるかで自分の評価軸が見えてきます。

いずれのジャンルも、1社だけを見て決める必要はありません。複数の情報源を比べて、話が食い違う部分を質問するのが有効です。無料で相談できるサービスが多いため、まずは「今すぐ辞める前提ではない」と伝えたうえで話を聞いてみる、という使い方もできます。

関連して読みたいテーマ(今後の記事予定)

  • 個人向け営業(BtoC営業)の離職理由と法人営業との違い
  • インサイドセールスに移った人が感じたギャップ
  • カスタマーサクセスという職種の実態
  • 販売職・接客職の働き方と離職理由
  • 施工管理・技術営業の働き方と離職理由

まとめ

  • 「法人営業」という粒度の離職率を示す公的統計はない。雇用動向調査には職業大分類別の集計はあるが、法人営業だけを抜き出した数値ではない
  • 離職理由として統計上多いのは、収入・労働時間などの労働条件・人間関係。法人営業ではこれが「目標プレッシャー」「顧客都合の時間」「稟議待ちの徒労感」といった形で語られやすい
  • 8つの離職理由は体験談ベースの分類であり、出現頻度を示す統計ではない。運用は組織によって差が大きい
  • 一方で、事業理解や折衝力が身につきやすく、他職種にも接続しやすい経験が得られる職種でもある
  • 辞めたさを感じたら、「会社」「業界・商材」「営業スタイル」「職種」のどこを変えれば解決するのかを切り分けることが先

注記: 本記事で紹介した公的統計は、産業別・職業大分類別など職種横断で集計されたものであり、法人営業という職種単独の数値ではありません。民間調査は、各サービスの利用者などを母集団とするものであり、全就業者を代表するものではありません。また、同じ法人営業でも業界・商材・組織の運用によって働き方は大きく異なり、この仕事に強いやりがいを感じて長く続けている人も数多くいます。ここで挙げた離職理由は「よく語られる傾向」であって、すべての人に当てはまるものではなく、感じ方には大きな個人差があります。自分の状況に照らして、当てはまる部分だけを判断材料として受け取ってください。

出典

一次資料

参考(二次情報・解説記事)