サーバー、ネットワーク、クラウド基盤——私たちが毎日当たり前に使っているサービスは、インフラエンジニアと呼ばれる人たちが支えています。それでいてこの職種は、「きつい」「夜勤がつらい」といった言葉と一緒に検索される機会も多い仕事です。
この記事では、インフラエンジニアの離職や転職にまつわる話を、できるだけ公的統計に沿って整理します。「辞めるべきだ」と煽るのではなく、自分が感じている負担が業界全体の傾向とどう重なるのか(あるいは重ならないのか)を確かめる材料として読んでいただければと思います。
なお、この記事では転職サービスのジャンルに触れる箇所があり、一部にアフィリエイトリンクを含む場合があります(掲載内容は編集部の判断で作成しています)。
まず前提:インフラエンジニアの仕事と、よく出てくる用語
離職理由を読み解く前に、話の土台になる用語を簡単に整理します。すでにご存じの方は読み飛ばしてください。
| 用語 | ざっくりした意味 |
|---|---|
| 運用・監視 | 稼働中のシステムが正常かを見守り、異常があれば一次対応する業務。24時間365日体制のことが多い |
| オンコール | 勤務時間外に、障害発生時の呼び出しに備えて待機する体制 |
| 一次対応/二次対応 | 一次はマニュアルに沿った初動、二次は原因調査や復旧作業など踏み込んだ対応 |
| オンプレミス/クラウド | 自社で機器を保有・設置する形と、外部事業者のクラウド基盤を利用する形 |
| IaC(Infrastructure as Code) | サーバー構成などをコードで管理し、構築を自動化する手法 |
| SRE | サイト信頼性エンジニアリング。運用を自動化・仕組み化して安定性を高める職種 |
| SES/客先常駐 | 技術者が契約に基づいて他社の現場で業務にあたる働き方 |
「インフラエンジニア」と一口に言っても、24時間シフトの監視業務が中心の人と、設計・構築やクラウド移行を担う人とでは、働き方も負荷もかなり違います。この違いは、この記事の後半でも繰り返し効いてきます。
統計で見る実態:情報通信業の離職率は「極端に高い」わけではない
まず押さえておきたいのは、データ上の位置づけです。
厚生労働省「令和6年 雇用動向調査」(2025年8月公表)によると、情報通信業の離職率は12.4%、入職率は10.2%でした。同じ年の全産業(調査産業計)の離職率は14.2%、入職率は14.8%です。つまり情報通信業の離職率は、産業全体の平均より低い水準にあります。宿泊業・飲食サービス業など、より離職率の高い産業も存在します。
データの時点について
雇用動向調査は例年8月ごろに前年の通年結果が公表され、上半期分の速報も別途公表されます。本記事が参照しているのは令和6年(2024年)の通年値です。この記事をお読みの時点でより新しい年次が公表されている可能性が高いため、最新の数値は厚生労働省の公表ページでご確認ください。
一方で、同じ令和6年の情報通信業では入職率(10.2%)が離職率(12.4%)を下回っています。全産業では入職率が離職率を上回っているのと対照的で、この年に限って言えば「出ていく人数に採用が追いついていない」構図がうかがえます。ただしこれは単年の断面であり、事業所規模や集計対象の影響も受けるため、傾向として語るには複数年の推移を見る必要があります。
また、新卒の早期離職についても、厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況」(令和4年3月卒業者・2025年10月公表)では、就職後3年以内の離職率が大学卒33.8%、高校卒37.9%でした。産業を問わず3人に1人前後が3年以内に離職しており、インフラエンジニアの離職だけが特別に多い、という単純な話ではないことは押さえておきたいところです。
ただし労働時間には、産業としての傾向がある
労働時間については、やや古いデータしか手元にないことを先に断っておきます。
厚生労働省労働基準局がIT業界向けのセミナー資料としてまとめた「IT業界の長時間労働対策について」(2017年の資料)では、情報通信業の年間総実労働時間が1,933時間(全産業平均1,724時間)、年間所定外労働時間が198時間(同129時間)と、全産業平均を上回る水準が示されていました。これは資料公表時点よりさらに前の年次データです。
その後の動きとしては、情報サービス産業協会(JISA)が厚生労働省の調査をもとに紹介した数値で、ITエンジニアの年間所定外労働時間が2013年の298時間から2018年には245時間へと50時間以上減少しています(JISA、2020年掲載)。業界全体としては改善の方向にあると読めます。
いずれも直近の数値ではないため、現在の水準を確認したい場合は、厚生労働省「毎月勤労統計調査」の産業別・所定外労働時間(情報通信業)を見るのが確実です。「業界としては改善傾向にあるが、平均より長時間労働になりやすい構造は残っていた」というのが、手元の統計から言える範囲の中間的な結論になります。
参考:公的統計が捉えている「離職の理由」
雇用動向調査では、転職入職者に前職を辞めた理由を尋ねています(全産業ベース)。個人的理由を除くと、上位には「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」「給料等収入が少なかった」「職場の人間関係が好ましくなかった」「会社の将来が不安だった」といった項目が継続的に並びます。
インフラエンジニアという職種単位での公的な離職理由調査は、編集部が確認した範囲では存在しません。以下の「7つの背景」は、この全産業の枠組みを下敷きにしつつ、職種特有の事情を編集部が定性的に整理したものです。
インフラエンジニアが「辞めたい」と感じやすい7つの背景
この章の位置づけ
ここから挙げる7点は、編集部が職種解説記事・体験談記事・求人票などの公開情報を確認した範囲で繰り返し登場したテーマを整理したものです。統計的にサンプリングされた調査ではなく、頻度の順位を示すものでもありません。また、参照した記事の多くは転職サービスを運営する事業者が発信したものであり、転職を検討している人の声が相対的に集まりやすいという偏りがある点にも留意してください。当てはまり方は、担当領域や所属先によって大きく変わります。
1. 24時間365日体制と、夜間・休日の障害対応
多くのITインフラは「止められない」前提で運用されるため、監視・運用を担う現場では夜勤やシフト勤務、オンコール待機が発生します。
負担として語られるのは「夜働くこと」そのものより、生活リズムが不規則になり、平日昼のライフイベントや家族・友人との時間と噛み合わなくなることであるケースが目立ちます。年齢やライフステージの変化とともに負荷の感じ方が変わり、それが転職検討のきっかけになるという流れは、ごく自然なものです。
ただしこれは職種そのものというより担当フェーズの問題でもあります。設計・構築や上流工程、社内インフラの企画側では日勤中心になるケースが多いことも、各種解説で共通して指摘されています。
2. 「動いて当たり前」で、成果が評価に見えにくい
インフラの仕事は、うまくいっているときほど誰にも気づかれません。障害が起きたときだけ注目される——この非対称性が、モチベーションの維持を難しくすることがあります。
アプリケーション開発のように「新機能をリリースした」という形で可視化しづらいため、予防的に払った努力(冗長化、キャパシティ設計、手順の整備)が評価に反映されにくいと感じる人は少なくありません。逆に言えば、評価制度に可用性やインシデント削減の指標が組み込まれている組織では、体感が大きく変わる部分でもあります。
3. 経験を「市場価値として言語化しにくい」
若手を中心に挙がるのが、キャリアの見通しに関する不安です。監視ツールのアラートを確認し、手順書に沿って一次対応してエスカレーションする——という業務が続くと、「この経験は他社で通用するのか」という疑問が生まれやすくなります。
ただしここは、「スキルが伸びない」と言い切るのは正確ではありません。運用・監視で培う障害の切り分け、インシデント対応の作法、キャパシティや平常時の挙動の把握は、SREやクラウド運用設計の領域で直接評価される能力です。問題はむしろ、それらが手順書と暗黙知の中に埋もれていて、職務経歴書に書ける言葉になっていないことにあります。
同時に、インフラ領域の重心がクラウド、IaC、コンテナ、自動化へ移っていることも、この不安を強めています。裏を返せば、いま自分がやっている対応を「どんな障害を、どういう判断で、どこまで自動化して減らしたか」に翻訳できるかどうかが、キャリアの分岐点になりやすいということでもあります。
4. 商流の多層化と、案件ごとの裁量の違い
IT業界では、発注元から複数社を経由して技術者が現場に入る商流が形成されることがあります。公正取引委員会が2022年に公表した「ソフトウェア業の下請取引等に関する実態調査報告書」では、業務の細分化と再委託の繰り返しによって商流が多層化し、極端に長い商流が形成される場合があることや、人員不足・短い開発期間が長時間労働につながりうることが指摘されました。
ここで切り分けが必要です。公取委の報告書が整理したのは「取引慣行として独占禁止法・下請法上問題となるおそれがある行為類型」であり、個別の事業者を違法と認定したものではありません。また、同報告書は取引構造を対象とした調査であって、常駐エンジニア個人の裁量や就業環境の満足度を測ったものではありません。
現場のエンジニアが感じる「意思決定に関われない」「使う技術を選べない」といった感覚は、実際には契約形態、案件、受け入れ先の体制によって大きく異なります。客先常駐で高い裁量と技術選定権を持って働いている人も、自社内勤務で裁量が乏しい人も、どちらも存在します。働き方の形式だけで一括りにできるものではない、という前提で読んでください。
5. 学習コストの高さと、自己研鑽の時間の確保
クラウドの新サービス、セキュリティ要件、認定資格——インフラ領域は学び続ける前提の職種です。技術のキャッチアップ自体を楽しめる人には魅力ですが、シフト勤務や長時間労働と学習時間の確保が両立しにくいとき、「このままだと取り残される」という焦りにつながります。
6. 年収の伸び方に対する納得感
インフラエンジニアの年収は、調査主体・対象・時点によって数字がかなり異なります。数字を扱う前に、それぞれが何を測ったものかを確認しておきます。
- 求人サイトの集計(平均503万円程度):これは求人票に掲載された賃金の集計であり、在職者が実際に受け取っている年収ではありません。データは随時更新されるため、参照する時点で数値が変わります(編集部が確認したのは2025年1月時点)。
- 転職エージェントの求人データ(平均443万円程度、2025年1月時点):同様に求人ベースで、かつ転職市場に出ている案件に偏ります。
- 経済産業省「IT関連産業の給与等に関する実態調査結果」:職種別の平均年収として、ITコンサルタントで約928万円、プロジェクトマネージャで約891万円といった水準が示されています。ただしこれは2017年8月公表(調査は2017年前半)の調査で、現在からおよそ9年前のデータです。現在の年収水準そのものの根拠としては使えません。
これらから言えるのは、水準そのものより、役割レベルによる差が大きい職種だという構造的な点です。運用フェーズにとどまると年収カーブが緩やかになりやすく、それが「今の場所で上がっていくのか」という問いを生みます。
転職動機については、レバテック(レバレジーズ)が実施した「レバテックIT人材白書2025」で、IT人材の転職理由の上位に「収入の改善」と「労働時間の改善」が挙がっています(同調査はIT人材3,000名等を対象としたインターネット調査。設問の回答形式や各項目の構成比は原典をご確認ください)。なおこの調査はIT人材全般を対象としたもので、インフラエンジニアに限定した結果ではなく、また転職支援を事業とする企業の自社調査です。参考値として扱うのが妥当だと考えています。
7. 人手不足・属人化による負荷の集中
人が抜けても補充が追いつかないと、残ったメンバーに業務が集中します。特定の人しか触れない仕組みがあると、その人は休みづらくなる——これは現場でよく語られる構図です。
前述のとおり令和6年の情報通信業では入職率が離職率を下回っていますが、単年の差だけで「離職が次の離職を呼ぶ」という因果を立証することはできません。入職率・離職率は事業所規模や産業内の構成にも左右され、年によって変動します。複数年の推移と現場の実感を併せて、そう解釈する余地がある、という程度に受け止めるのが適切です。
一方で、この仕事を続けている人が挙げる価値
離職理由だけを並べると一面的になるので、続けている人が語る良さも整理しておきます。
- 社会基盤を支えている実感:止まると多くの人が困るものを守る仕事であること
- スキルの汎用性:OS、ネットワーク、セキュリティの基礎知識は、業界が変わっても通用しやすい
- 市場の需要:クラウド移行やセキュリティ強化の流れで、設計・構築や自動化ができる人材の需要は続いている
- キャリアの広がり:SRE、クラウドアーキテクト、セキュリティ、社内情報システム、プリセールス、PMなど、進む先の選択肢が多い
同じ「インフラエンジニア」でも、監視中心の現場で疲弊している人と、クラウド設計を任されて面白がっている人が同時に存在します。この職種が合うか合わないかを、一般論で判断しきることはできません。
辞める前に整理しておきたい5つの問い
「辞めたい」という気持ちの正体を切り分けると、取れる選択肢が増えます。編集部としておすすめしたいのは、以下の5つを書き出してみることです。
- 何がつらいのか:勤務形態(夜勤・オンコール)か、仕事の中身か、人間関係か、給与か
- それは会社の問題か、職種の問題か:同じ職種でも、勤務形態や担当フェーズは会社によって大きく違う
- 社内で変えられる余地はあるか:部署異動、担当フェーズの変更、シフト体制の見直し提案など
- 3年後にやっていたい仕事は何か:構築・設計、クラウド、セキュリティ、マネジメント、それとも職種変更か
- 今の環境で、それに必要な経験が積めるか:積めないなら「いつまでに」を決める
特に2と3は重要です。夜勤が理由なら「日勤中心の設計・構築」「社内情報システム」への移動で解決する場合があり、必ずしも業界を離れる必要はありません。逆に、構造的に変わらない環境であれば、外に出るほうが早いこともあります。
転職を検討する場合、どんな選択肢があるか
インフラで培った経験は、意外と横に広がります。代表的な進路を挙げます。
- クラウドエンジニア/SRE:自動化・信頼性設計に軸足を移す。学習負荷は高いが需要も高い
- 設計・構築、上流工程:運用から構築側へ。日勤中心になりやすい
- 社内SE・情報システム部門:事業会社側で自社の基盤を担当。勤務の安定性を重視する人に選ばれやすい
- セキュリティエンジニア:インフラ知識が直結する領域
- プリセールス/テクニカルサポート:技術知識を顧客接点で活かす
- 開発・データ基盤:コードを書く比重を上げる方向
転職サービスは「タイプ別に比較する」のが基本
転職エージェントや転職サイトは数多くありますが、どれか一つが万能ということはありません。タイプの違いを理解して、2〜3種類を併用しながら比べるのが現実的です。
- 総合型の大手エージェント:求人数が多く、業界横断で相場観をつかみやすい
- IT・エンジニア特化型エージェント:技術の話が通じやすく、担当フェーズや使用技術の条件を詰めやすい
- スカウト型・ダイレクト採用サービス:登録しておくと市場からの評価が可視化される。今すぐ転職しない人にも使いやすい
- フリーランス/業務委託の案件紹介サービス:正社員以外の働き方も含めて比較したい場合に
- 企業への直接応募:志望度が明確な場合の選択肢
すぐ辞めるつもりがなくても、求人票を眺めて「自分の経験がどう値付けされるか」を知っておくこと自体に価値があります。今の職場に残る判断も、外の相場を知ったうえでのほうが納得感が出ます。逆に、情報を持たないまま「他に行き場がない」と感じてしまうのは、判断材料が足りていないだけかもしれません。
まずは、現職と比較するための材料を1〜2社分そろえてみる。次の一歩としては、そのくらいの温度感で十分です。
出典一覧
公的統計(一次資料)
- 厚生労働省「令和6年 雇用動向調査結果の概況」(2025年8月公表)——情報通信業の入職率・離職率、全産業の入職率・離職率、転職入職者が前職を辞めた理由
- 厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(令和4年3月卒業者)」(2025年10月公表)——3年以内離職率
- 厚生労働省労働基準局「IT業界の長時間労働対策について」(2017年・セミナー資料)——情報通信業の年間総実労働時間、所定外労働時間
- 公正取引委員会「ソフトウェア業の下請取引等に関する実態調査報告書」(2022年)——商流の多層化、長時間労働に関する指摘
- 経済産業省「IT関連産業の給与等に関する実態調査結果」(2017年8月公表)——職種別の平均年収
業界団体・民間調査(補助的に参照)
- 情報サービス産業協会(JISA)「プロジェクトと残業時間 〜厚労省調査から〜」(2020年掲載)——ITエンジニアの年間所定外労働時間の推移(2013年/2018年)
- レバテック(レバレジーズ)「レバテックIT人材白書2025」——IT人材の転職理由
- 求人サイト・転職エージェントの求人賃金集計(いずれも2025年1月時点に編集部が確認)——インフラエンジニアの求人票掲載賃金
出典の扱いについて
- 統計数値はいずれも公表時点のものです。特に雇用動向調査・毎月勤労統計は毎年更新されるため、最新の数値は各機関の公表資料をご確認ください。労働時間と給与に関するデータは公表から年数が経っており、現在の水準とは差がある可能性があります。
- 本記事は、転職エージェント・転職サイトの紹介による広告収益を得ている媒体です。また、上記のうち転職動機・年収に関する一部の数値は、転職支援を事業とする企業の自社調査・自社求人データに由来します。利害関係のある主体による調査である点を踏まえ、参考値として扱っています。
この記事の注記
本記事で紹介した「7つの背景」は、公的統計の枠組みと、編集部が確認した公開情報に共通して見られたテーマを整理したものであり、インフラエンジニアとして働くすべての人に当てはまるものではありません。同じ職種でも、勤務形態・担当フェーズ・所属組織・ライフステージによって感じ方は大きく異なり、この仕事に強いやりがいを感じて長く続けている方も数多くいます。特定の企業・働き方・契約形態を否定する意図はありません。