「警察官は辞める人が多い」という話を、一度は耳にしたことがあるかもしれません。実際に交番や捜査の現場で働く人からも、採用を担当する側からも、近年この話題は繰り返し語られています。

ただ、その「多い」という感覚が、どのくらいの規模で、どの層に、どんな理由で起きているのかまで整理された情報は意外と多くありません。この記事では、公的統計や報道をもとに、警察官の離職の実態と、その背景として挙げられる理由を分類して整理します。

警察官は、社会の安全を支える専門性の高い仕事です。この記事は特定の組織や、そこで働く人を批判する目的で書いたものではありません。あくまで「いま迷っている人が、自分の状況を落ち着いて言語化するための材料」として読んでいただければと思います。

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まず数字から:警察官の離職は「全体」ではなく「若手」に偏っていると報じられている

離職の話をするとき、最初に押さえておきたいのは「全体の離職率」と「若手の離職率」はまったく別物だという点です。

地方公務員の退職状況は、総務省が毎年「地方公務員の退職状況等調査」として公表しています。この調査では、定年退職や勧奨退職とは別に、自己都合などによる「普通退職」が区分されて集計されており、警察職も職種区分のひとつとして扱われています。

「民間より低い」という比較は、そのままでは成立しない

ここで注意したいのは、統計同士の安易な比較です。厚生労働省「雇用動向調査」の離職率(令和5年・令和6年とも15.4%)は、定年退職・契約期間満了・人員整理・自己都合をすべて含んだ「全離職」の数値です。一方、総務省調査の「普通退職」は、定年・勧奨退職を除いた自己都合中心の区分にあたります。

つまり、分母・分子の定義がそもそも異なるため、「警察職の普通退職率は民間の離職率より低い」という形の比較は、統計的には成立しません。本記事では、この二つを直接比べる書き方は採用しません。

言えるのは、警察職の普通退職率は、一般的にイメージされるような「毎年多数が一斉に辞めていく」水準ではないということ、そして次に述べるとおり、退職者の年齢構成に偏りがあると報じられているということです。

年齢構成の偏りは「報道で紹介されている数値」として扱う

複数の報道・解説記事で共通して指摘されているのは、普通退職者の年齢構成が20代前半に強く偏っているという点です。たとえば、普通退職者のうち25歳未満が半数近くを占め、35歳未満まで広げると全体の約7割に達した、という趣旨の紹介が見られます。

ただし、この年齢内訳について、年度・対象範囲・集計表を特定できる一次資料を筆者側では確認できていません。総務省「地方公務員の退職状況等調査」の公表資料においても、警察職の年齢別内訳がどの粒度で掲載されているかは年度により異なります。

したがって本記事では、この数値を確定した公的統計としてではなく、「一部報道・解説記事で紹介されている数値」として扱います。正確な数字を確認したい場合は、総務省の原典資料や、志望・在職している都道府県警の公表情報をあたることをおすすめします。

そのうえで、傾向としての読み取りを控えめに言えば——警察官の離職は「長く勤めた人が辞めていく現象」というより、「入職して数年以内に離れる人が一定数いる現象」として語られることが多い、というのが現状の情報から見える輪郭です。

採用の現場でも同じ方向の変化が報じられている

離職と表裏一体なのが、採用の状況です。時事通信の2025年6月28日付の報道によると、全国の警察官採用は2023年度の実績で、採用予定約8,200人に対し実際の採用が約7,300人と、予定数に届かない状況が生じています。同報道では、内定辞退率が3割前後で高止まりしていること、30以上の都道府県警でなり手不足が生じていることも伝えられています。

採用予定数に対する不足は全国合計ベースの数値であり、都道府県警ごとの充足状況とは区別して読む必要があります。また、警察当局が「治安維持に影響しかねない」との懸念を示しているという部分も、同報道が伝えている内容であり、本メディアの評価ではありません。

受験者数についても同報道に一次的な数値があり、2021年度の約6万2,900人から、2023年度には約4万8,300人へ減少したとされています。受験者数が減れば、採用予定数が同水準なら倍率は低下することになります。

「辞める人がいる」ことと「志望する人が減っている」ことが同時に報じられている。これが、いま警察官の離職が語られやすくなっている時期的な背景です。

なお、ここで挙げた数値はいずれも2023年度実績にもとづく2025年時点の報道であり、直近年度の状況を示すものではありません。


用語メモ:記事に出てくる警察の勤務まわりの言葉

外から見ると分かりにくい言葉がいくつかあるので、先に整理しておきます。運用は都道府県警や部署によって異なるため、あくまで一般的な説明としてご覧ください。

用語一般的に説明される意味
三交代(三交替)勤務勤務員を3班に分け、「当番 → 非番 → 日勤/週休」といったサイクルを繰り返す勤務形態。交番やパトカー勤務など地域警察に多いとされる
当番朝(午前8時半頃)から翌朝までの、仮眠・休憩を含む長時間勤務のこと
非番当番明けの日。制度上は「勤務を要しない日」にあたるが、必要に応じて呼び出しや行事対応が生じる場合があると説明されることが多い。運用は所属により異なる
地域課・交番勤務採用後、多くの人が最初に配属されるとされる部署。パトロール、110番対応、遺失物、各種相談などを幅広く担当
警察学校採用直後に入校する全寮制の教育機関。高卒区分と大卒区分で在校期間が異なる
術科柔道・剣道・逮捕術・拳銃射撃などの実技訓練
昇任試験巡査部長、警部補などの階級を上げるための試験。受験時期や回数が本人のキャリアに影響するとされる

「非番は休日そのものではない」という点は、外部から見たイメージと実態がずれやすい代表例としてよく挙げられます。ただし、これも所属や地域によって運用の幅がある点は押さえておいてください。


警察官の離職理由として挙げられやすい7つの要因

この章を読む前に:情報源の性質について

ここから挙げる7つの要因は、退職経験者の体験談記事、転職支援サービスが公開しているインタビューや解説記事、口コミサイトの「退職検討理由」などで繰り返し登場するテーマを分類したものです。

この情報源には、あらかじめ2つの偏りがあります。

  • 自己選択バイアス:語っているのは主に「辞めた人・辞めようか迷った人」です。満足して働き続けている人の声は、そもそもこうした記事に登場しにくい構造があります。
  • 発信元のインセンティブ:転職支援サービスが公開する記事は、性質上「転職という選択肢」を前向きに扱う動機を持ちます。そして、本メディア自身も転職サービスの紹介を収益源としており、同じ方向の利害を持っています。この点は、読者のみなさんに開示しておくべきだと考えます。

したがって、以下は在職者全体の分布を示すデータではなく、「語られやすい理由の傾向」として読んでください。人によって受け止めは大きく異なります。

1. 勤務形態と生活リズムのミスマッチ

最も多く語られるのが、勤務サイクルの負荷です。三交代勤務では、当番・非番・日勤が一定周期で回るため、生活リズムが一般的な平日休日のパターンとずれます。当番には仮眠時間が設定されていますが、事件・事故の発生状況によっては仮眠が取れない日もあると説明されます。

厚生労働省「雇用動向調査」でも、転職入職者が前職を辞めた理由として「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」は例年上位に入り続けています。これは警察に限らず職種横断的な傾向ですが、24時間体制が前提の職務では、この要素が相対的に重くなりやすいと考えられます。

体調が持つかどうかは個人差が大きく、「数年で慣れた」という声と「何年経っても身体が合わなかった」という声の両方が存在します。

2. 私生活への制約

住居の届出、旅行や外泊時の連絡、SNS利用への配慮、緊急招集への待機など、勤務時間外にも一定の制約がかかるとされます。これは職務の性質上必要とされるものですが、「自由時間が削られている感覚」として受け止める人もいます。どの程度気になるかは、年齢ではなく個人の価値観や生活状況によって大きく変わります。

特に、結婚・出産・親の介護といったライフステージの変化と重なったとき、「このままの働き方を続けられるか」を考え直すきっかけになったという声は少なくありません。

3. 組織文化・指揮系統になじめないと感じるケース

警察組織は、警察法や警察法施行令等にもとづき、階級制と明確な指揮監督関係が制度として定められています。緊急時に組織として迅速・確実に動くために設計された仕組みですが、裁量を持って動きたいタイプの人にとっては窮屈に感じられることがある、と説明されることがあります。

また、階級と年次が組織構造に明示されているため、人間関係の相性が働きやすさを左右するという指摘もあります。厚生労働省の調査でも「職場の人間関係が好ましくなかった」は離職理由の上位に挙がり続けており、これは職種を問わない一般的傾向です。

なお、近年はハラスメント対策や相談窓口の整備が各警察本部で進められており、環境は一様ではありません。所属や上司によって体感が大きく違う、というのが体験談に共通する点です。

4. 志望時のイメージと実務のギャップ

「人を助けたい」「事件を解決したい」という動機で入職した人が、実際には書類作成、遺失物対応、各種届出処理、住民相談といった地道な業務に多くの時間を割く現実に直面し、ギャップを感じるケースです。

これは警察に限った話ではなく、専門職・公的職種に広く見られる現象です。「志望動機が強い職業ほどギャップの落差も大きくなりやすい」と説明されることがありますが、これは統計的に検証された関係というより、キャリア支援の現場でよく用いられる説明の枠組みだと理解しておくのが妥当でしょう。

5. 心身への負荷とメンタルヘルス

事件・事故の現場に立ち会う職務には、いわゆる惨事ストレスを含む特有の精神的負荷が伴います。各警察本部ではカウンセリング体制や心理専門職の配置といった対策が進められていますが、負荷そのものがゼロになるわけではありません。

参考値として、地方公務員全体のメンタルヘルス不調(1か月以上の病気休暇・休職)に関する統計が総務省や地方公務員安全衛生推進協会から公表されており、近年は職員数比で1%台半ばの水準が報告されています。

ただし、これらの調査は対象範囲が調査ごとに異なり、警察職員・消防職員・教育職員を集計対象に含まないものもあります。したがって、警察官の数値としてそのまま読むことはできません。あくまで「公務部門全体の参考値」としてご覧ください。警察職員に限定した数値をお探しの場合は、警察庁や各都道府県警の公表資料をあたる必要があります。

6. 異動・転勤とキャリアの見通し

都道府県内での定期的な異動があり、勤務地や所属が数年単位で変わるとされます。希望した部署に行けるとは限らず、刑事・交通・生活安全・警備といった専門分野に進むには、昇任試験や選考、上司の推薦といったプロセスが関わると説明されます。

「思い描いたキャリアに進める見込みが立たない」と感じたタイミングが、転職を考え始める分岐点になったという声は一定数あります。

7. 労力と待遇のバランスに対する感覚

待遇面については、総務省「地方公務員給与実態調査」で直接確認できます。同調査では職種別に平均給与月額(給料月額+諸手当)が公表されており、警察職は諸手当の比率が一般行政職より高い構造になっています。捜査等業務手当、警ら手当、夜間勤務手当など、職務特有の手当が上乗せされるためです。

つまり、平均給与月額で見る限り、警察職は地方公務員の職種のなかでも上位に位置します

ただし、この比較には留保が必要です。警察職と一般行政職では平均年齢・学歴構成・勤務形態が異なるため、平均額の差をそのまま「手厚さの差」と読むことはできません。年齢や学歴を揃えた比較でなければ、待遇の優劣を断定することはできない、というのが統計を扱ううえでの前提です。

それでも「労力に対して見合わない」と感じる人がいるのは、金額の絶対水準ではなく、拘束時間・責任の重さ・私生活の制約を含めた総量との比較で判断しているためだと考えられます。ここは個人の価値観に大きく依存する部分で、同じ条件でも評価が正反対に分かれます。


逆に「続けている理由」も見ておく

辞める理由ばかり並べると視野が偏るので、続けている人が挙げる要素も整理しておきます。

  • 雇用と収入の安定性:景気変動の影響を受けにくく、退職手当や共済年金制度も整っている
  • 手当を含めた実質的な待遇:前述のとおり、諸手当の比率が高い構造になっている
  • 社会的意義とやりがい:直接的に人の役に立つ実感を得やすい
  • 専門性の蓄積:捜査、交通、鑑識、サイバーなど、他では得がたい経験を積める
  • 研修・訓練体制:組織として教育に時間とコストをかけている

「辞めたい」という感情が強いときほど、いま持っているものが見えにくくなります。辞める理由と残る理由を同じ紙に並べて書き出すだけでも、判断の解像度は上がります。


「辞めるか続けるか」を切り分ける5つの問い

転職を検討する前に、自分の状況がどのタイプか整理してみてください。異動で解決する問題と、組織を離れないと解決しない問題は、まったく別ものです。

  • 不満の対象は「職務そのもの」か「いまの所属・人間関係」か

後者なら、異動希望や配置転換で状況が変わる可能性があります。

  • 時間が経てば変わる要素か、構造的に変わらない要素か

勤務形態や私生活の制約は、部署が変わっても一定残る構造的要素です。

  • 心身の状態は判断できるコンディションにあるか

睡眠障害や食欲の変化が続いているなら、転職の検討より先に医療機関や職場の健康管理部門への相談が優先です。疲弊しているときの決断は、後から見ると極端に振れがちです。

  • 辞めた場合の生活設計は立つか

退職手当、共済から国民健康保険・厚生年金への切り替え、転職までの期間の収入見込みを具体的な数字で確認しておきます。

  • 相談できる相手が職場の外にいるか

組織内だけで完結させると、選択肢が「続ける/辞める」の二択に狭まりやすくなります。


転職を検討する場合:知っておきたいサービスのジャンル

実際に外を見てみると決めた場合、転職サービスにはいくつかタイプがあり、それぞれ得意分野が違います。辞めるかどうかを決める前に、情報収集だけしておくという使い方もできます。

  • 総合型の転職エージェント:求人数が多く、幅広い業界を横断して比較したいとき向き。まず市場感をつかむ入口として使われることが多いタイプです。
  • 公務員・第二新卒層に強いエージェント:民間企業での職務経歴がない状態からの転職支援に慣れており、職務経歴書の書き方から相談しやすいのが特徴です。
  • 業界特化型エージェント:警備・セキュリティ、リスク管理、コンプライアンス、保険、不動産、人材など、特定領域の求人と内部事情に詳しいタイプ。前職の経験を活かす方向を探るときに向きます。
  • スカウト型の転職サイト:職務経歴を登録して企業からのオファーを待つ形式。在職中でも負担が少なく、「自分の経験が市場でどう見られるか」を確かめる用途に使えます。
  • 地域特化型サービス:勤務地を変えたくない、地元で働き続けたいという条件が優先される場合に有効です。

サービスごとに担当者との相性や紹介される求人の傾向が異なるため、複数のタイプを併用して比較するという方法もあります。一方で、登録先を増やすほど連絡対応の負担も増えるため、何社使うかは自分の状況に合わせて決めてください。1社の提案だけで判断すると選択肢の全体像が見えにくくなる、という点だけ意識しておくとよいでしょう。

なお、警察官として培った経験(法令の理解、報告書作成、緊急時の判断、対人対応、身元の信頼性など)は、民間でもポータブルスキルとして評価される場面があります。一方で、指揮系統や仕事の進め方の違いに戸惑ったという声もあり、「経験が活きる」「そのままでは通用しない」の両方の事例があるというのが実情です。ここも事前に情報を集めておく価値がある部分です。


まとめ

  • 警察職の「普通退職率」と民間の「離職率」は統計上の定義が異なり、直接比較はできない
  • 一部報道・解説記事では、普通退職者が20代前半に偏っていると紹介されているが、年度・範囲を特定できる一次資料は本記事では確認できていない
  • 時事通信の2025年6月報道によれば、2023年度実績で採用予定約8,200人に対し採用約7,300人、受験者数も2021年度比で減少しており、採用面の変化も同時に報じられている
  • 語られやすい離職理由は、勤務形態、私生活の制約、組織文化、職務内容のギャップ、心身の負荷、キャリアの見通し、労力と待遇のバランス感覚
  • 待遇は平均給与月額で見れば地方公務員のなかで上位だが、平均年齢・学歴構成の違いがあるため単純比較はできない
  • 迷ったときは、「異動で変わる問題」か「構造的な問題」かを切り分けることが判断の出発点になる

最後に一点だけ。ここに挙げた離職理由は、あくまで「辞めた人・辞めようか迷った人が語った内容の傾向」であり、その情報源には転職支援事業者が発信するものも含まれています。同じ職場、同じ勤務形態でも、感じ方は人によって大きく異なります。「警察官はみんな辞めたがっている」という話ではまったくありませんし、あなたがいま感じている違和感が他の人と違っていても、それは何もおかしいことではありません。自分の感覚を、自分の基準で検討してみてください。


出典・参考

公的統計・一次資料

報道

解説記事(※一部は転職支援事業者・資格スクール等が運営するサイトです)